【773号】給与を上げたけりゃ、高度技術の移民を増やせ?
◎本日のニュース
1)見出し
Skilled Foreign Workers a Boon to Pay, Study Finds
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2)要約
1990年から2010年に渡る、219年の賃金と移民の関係を調べたところ、意外な事実が判明した。それは、高度な技術力のある移民の増加は、大卒ネイティブの賃金を引き上げる効果があるということである。
この理屈は、技術力の高い移民が増えることにより、経済全体の生産性を引き上げるからである。生産性が向上すれば、パイ自体が増幅し、労働機会全体を増やすことになる。
この調査結果は、H1Bビザの制限拡大・撤廃の議論をサポートするだろう。ただし、これが成り立つのは、高度技術を持つ移民の場合のみであり、技術力の低い場合は、ネイティブ労働者と仕事を奪い合うことなるとされる。
◎キーセンンスとその翻訳
3)キーとなる英文
Researchers found that cities seeing the biggest influx of foreign-born workers in science, technology, engineering and mathematics—the so-called STEM professions—saw wages climb fastest for the native-born, college-educated population.
4)キーとなる英文の和訳
研究者が発見したのは、科学・技術・エンジニア・数学、つまりSTEMと言われる職種で、外国人労働者の流入が最大であった都市では、ネイティブの大卒労働者の賃金率がより高かったということである。
5)気になる単語・表現
researcher | 名詞 | 研究者 |
influx | 名詞 | 流入 |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
人口減少に直面する日本でも、やっと移民の是非について真剣に議論されるようになりました。移民の増加は、外部環境の変化であり、新たなビジネスチャンスを生み出すことは間違いないでしょう。そこで、WSJで移民に関するとても興味深い記事があったので、今回取り上げたいと思います。
その記事では、常識とは真逆のことが述べられています。それは、移民を増やすほど賃金水準は上昇するということです。常識では、移民を増やすほど、職の奪い合いが起きやすくなり、賃金は低下しやすくなるというもの。条件により、この常識は常に成立するとは限りません。
STEMと呼ばれる高度技術の職に限っては、移民が増えるほど大卒ネイティブの賃金は上昇しやすくなります。その根拠となるデータは次の通り。
【STEM分野の移民と大卒ネイティブ賃金の関係】
[1] STEM分野の移民数が最大の都市→物価調整後の大卒ネイティブの賃金は17~28%上昇
[2] STEM分野の移民数が減った33都市→このうち25都市で、大卒ネイティブの賃金は減少
STEM分野の移民数と大卒ネイティブの賃金が正の相関をしていることがわかります。大卒か非大卒かの違いは、次のデータを見ればよくわかります。
【STEM移民による賃金上昇における大卒・非大卒の違い】
[条件]STEM分野で外国人労働者の割合が1%ポイント増加する
[大卒ネイティブの賃金]7~8%ポイント増加
[非大卒ネイティブの賃金]3~4%ポイント増加
STEM分野の移民による賃金上昇の影響は、大卒の方が大きいことがわかります。
STEM分野の移民の増加が大卒ネイティブの賃金上昇をもたらす理屈は、以下の通りです。
【STEM分野の移民の増加が大卒ネイティブの賃金上昇をもたらす理屈】
高度技術の移民が増加する→生産性が向上する→市場のパイ拡大→高度技術を要する労働機会の増加→比較的高い専門技術・知識を持つ大卒ネイティブの賃金上昇
つまり、技術力の高い移民が増えることにより、生産性が上昇し、アメリカ経済全体の成長率が増すのです。この経済的恩恵を受けるのが、比較的高い専門技術・知識を持つ大卒。一方で、専門技術・知識の少ない非大卒はその恩恵が小さいので、賃金上昇率も限られます。
では、高い技術力のない移民の場合はどうなるのか。この理屈が成り立たないので、アメリカ経済全体の成長に寄与することなく、逆にネイティブと職の奪い合いを引き起こします。この場合は、先述の常識が成立します。
アメリカでこのような移民の調査結果が注目されたのは、高度技術者の移民数を制限するH1Bビザの上限問題が起こっているからです。現在は、自国民の職業機会を守るために、高度技術者の流入数に制限が設けられています。この上限の引き上げもしくは撤廃が、議論として持ち上がっているようです。記事で取り上げたデータは、引き上げ・撤廃をサポートすることになります。
日経新聞朝刊の経済教室でも、高度技術者の外国人労働者を増やすべきだとの意見が取り上げられていました。その根拠は、記事とほぼ同じ。外国企業を積極的に受け入れることにより、高度技術者の外国人労働者を増やせば、日本の製品開発力が増し、大量生産に頼らないビジネスモデルを確立できるから。高度技術の製品開発では、質・量の豊富な情報が必要とされるので、高度技術者の外国人が身近にいる方が、より有利になるとのことです。
人手不足問題は、企業を直面しています。この問題を構造的に解決するには、生産性をアップさせるしかありません。その方法として、高度技術力のある外国人労働者の受け入れが注目されれば、一気に技術力の高い外国人労働者が増えるかもしれません。
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《今回のヒントのまとめ》
(1)高度技術の移民数と大卒ネイティブの賃金上昇率には、正の相関関係がある。
(2)それは、技術力の高い移民が増えれば、生産性の上昇により経済成長率が上昇するからである。
(3)ただし、経済成長により増える労働には比較的高い専門技術や知識が必要とされるので、大卒の方が非大卒よりも賃金上昇率は高くなる。
(4)一方、技術力の低い移民の場合は、ネイティブ労働者との職の奪い合いが起こりやすくなる。
(5)日本でも、製品開発力を高めるために、高度技術力のある外国人労働者の受け入れに注目が集まるかもしれない。
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7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
またまた第三のビールの新製品を見つけました。
それは、サッポロビールのホワイトベルグ。
試しに一缶飲んでみましたが、これもよかった。
それどころか、この美味しさでこの価格はあかんやろ、と思ったほど。
まるでヴァイツェンです。
ホワイトベルグのせいで、地ビールや外国産高級ビールの売上落ちるかもしれませんよ。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、5年経ちました。
この5年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
最近、ビールをおすすめする機会が増えたのですが、実は焼酎を飲む方が多いです。
焼酎は酔いにくいのがいいですね。
水割りなら、そう飲めるものではないからでしょうか。
経済的にもやさしいです。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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