【810号】著名投資家のバフェット氏が成熟産業の自動車ディーラーを買収した理由とは?
1)見出し
Warren Buffett Buys New-Car Retail Chain
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2)要約
ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社のバークシャー・ハサウェイ社は、全米五位の自動車ディーラーの買収を発表した。バークシャー・ハサウェイは、家族経営の中小企業が乱立する自動車ディーラー業界の統合を目指す。
自動車ディーラー業界には、構造的な変化が起きている。金融危機後、プレーヤーの淘汰が加速した一方で、市場は拡大したため、企業あたりの売上は向上。さらに、来店客はディーラー来店前にウェブで事前調査を行うために、ディーラーの販管費は減少し、利益率も改善している。
バフェットの自動車ディーラー業界への参入は、地方新聞・不動産仲介市場への参入と似ている。その共通点は、残存者利益が大きい割に、巨大ブランドが存在していない市場である。
◎キーセンンスとその翻訳
3)キーとなる英文
The billionaire investor on Thursday agreed to buy America’s fifth-largest auto retailer and use it to launch a consolidation of the highly fragmented business.
4)キーとなる英文の和訳
大富豪投資家のバレット氏は、木曜日、全米で五番目に売上規模の大きな自動車ディーラーを買収し、中小企業が非常に乱立した市場の統合をその買収企業を利用して進めると発表した。
5)気になる単語・表現
billionaire | 名詞 | (10億ドル以上の財産を持つ)大金持ち、大富豪 |
consolidation | 名詞 | 統合;合併;強化すること |
fragment | 他動詞 | ~をバラバラにする |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
バークシャー・ハサウェイ社が買収した自動車ディーラーは、フェニックス本社のバン・タイル・グループ。年間約24万台を販売し、年間売上は80億ドルの全米5位の自動車ディーラーです。バークシャー・ハサウェイは、バン・タイルを利用して、本格的に自動車ディーラー市場に参入するようです。
バークシャーが自動車ディーラー市場への参入に踏み切った理由は、次のようになります。
【バークシャー・ハサウェイが自動車ディーラー市場に参入する理由】
- 残存者利益が大きいから
- 中小零細企業が乱立し、明確なトップブランドがないから
- 自動車ディーラーの稼ぎ頭であるローン・保険販売で相乗効果を発揮できるから
- 家族経営の企業が多く、事業継承ニーズが高いから
1について、自動車ディーラー業界は、金融危機後大きく変化しました。金融危機後、自動車メーカーは、財務上不安定な企業との契約を破棄。その結果、自動車ディーラーの数が減少。1970年の30800軒から2013年には17700軒に大きく減少しています。一方で、自動車売上はV字回復しているので、一企業あたりの売上は大きく向上しています。つまり、自動車ディーラーは、残存者利益を享受できているのです。さらに、消費者はウェブで事前に調べてから来店するので、ディーラーの販売コストは低下。その結果、自動車ディーラーの収益は大きく改善しているのです。このビジネスチャンスを、著名投資家のバフェット氏が見逃すわけがありません。
2について、残存者利益の大きな産業ながら、中小零細企業が乱立しており、市場に大きな影響を及ぼすような大きなブランドがありません。つまり、資本力が限られた小粒なプレーヤーばかりで、大きな投資ができないのです。一方のバークシャー・ハサウェイには、豊富な資金、さらには「ウォーレン・バフェット」「バークシャー・ハサウェイ」というブランドがあります。実際、バークシャー・ハサウェイは、「バークシャー・ハサウェイ・オートモーティブ」というブランド名で、自動車ディーラーの統合を図り、強力なブランドとして育てる予定です。
3について、自動車ディーラーのビジネスモデルでは、ローン・保険販売と修理などのサービス契約が自動車販売よりも大きな利益を上げます。ここで、バークシャー・ハサウェイの強みを活かせることができます。つまり、豊富な資金力・高い株価によりローン収益を拡大でき、さらに傘下のゲイコ保険は自動車保険の販売を通じて新規顧客を獲得できるのです。バークシャー・ハサウェイは既存資産を自動車ディーラービジネスで活用することにより、収益の更なる拡大を図ることができます。
4について、家族経営の多い自動車ディーラー業界で進んでいるのが、事業継承。多くの創業者は、年齢を重ねるにつれて、事業売却によるエグジットを狙っています。この外部環境は、ディーラーの統合を進めるバークシャー・ハサウェイにとって大きなビジネスチャンスなのです。
ちなみに、バン・タイル・グループの買収を決めたのは、自動車ディーラー業界内での名声が高く、バークシャー・ハサウェイの企業文化と合致するから。また、他のディーラーとの関係が良好なため、ディーラーの統合をうまく進められるからです。
バークシャー・ハサウェイの自動車ディーラー業界への参入は、決して突飛なことではありません。それどころか、バークシャー・ハサウェイのこれまでの方針に合致しているとも言えます。というのも、バークシャー・ハサウェイが行った地方新聞・不動産仲介市場への参入と似ているからです。地方新聞・不動産仲介・自動車ディーラーの各市場の共通点をまとめると、次のようになります。
【地方新聞・不動産仲介・自動車ディーラー各市場の共通点】
- 残存者利益が大きい
- 中小零細企業が乱立し、確固たるブランドが存在しない
- 事業継承を進める家族経営企業が多く、統合のハードルが低い
自動車ディーラーと言えば、昔からあるビジネスであり成熟ビジネスの代表選手のようなもの。決して、マスコミや社会から注目されるビジネスではありません。どちらかというと、企業淘汰が進む産業でもあります。だからこそ、資金力のある大企業が参入する可能性が低く、残存者利益の大きな産業なのです。バフェット氏は、この安定した競争の激しくない市場でこそ、自社の資金力・ブランド力・既存事業を大きな強みとして発揮できると考えたのでしょう。
成熟市場という、通常見逃される領域にこそ大きなビジネスチャンスが転がっているのかもしれません。
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《今回のヒントのまとめ》
- バークシャー・ハサウェイ社が成熟した自動車ディーラー市場に参入するのは、残存者利益が大きい一方で、企業が乱立しカッコとしたブランドが存在しないからである。また、資金力や既存の保険事業で相乗効果を発揮でき、事業継承を考える家族経営企業が多く、事業統合が進めやすいからである。
- 自動車ディーラー産業は、金融危機後、企業淘汰が進む一方で、自動車販売が回復したので、企業あたりの収益性は大きく向上し、大きな残存者利益を享受できる産業となった。
- 自動車ディーラー市場への参入は、地方新聞・不動産仲介市場への参入と似ている。その共通点は、残存者利益が大きく、確固としたブランドがなく、事業継承の進める家族経営が多く統合が進めやすい、という点である。
- 競争が激しくない一方で一定の収益を確保できる成熟市場は、資金力・ブランド力・関連事業を持つ企業にとっては狙い目なのだろう。
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編集後記
バークシャー・ハサウェイ社のサイトを初めて見たのですが、そのシンプルさには驚きました。
画像が全くありません。
上場企業でこんなシンプルな公式サイトを持つ企業、他にはないでしょう。
バフェット氏の倹約ぶりを物語っています。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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