【910号】菓子メーカーのモンデリーズが成長戦略の第一にコスト削減を掲げる理由
◎本日のニュース
1)見出し
Mondelez Offers Details of Cost-Cutting Plan
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2)要約
モンデリーズ・インターナショナル社は、アクティビストからの圧力により、コスト削減策、ヘルシー志向に合う商品の開発とネット販売の拡大策について、詳細な途中経過を明らかにした。
コスト削減では、本部販管費の削減と管理プロセスのシンプル化、製造設備のリストラを行い、競合よりも劣る営業利益率の改善を試みる。売上向上策では、マーケティングにおけるSNSやその他ネットの利用拡大、新市場への参入、ヘルシー志向に合ったスナックの開発、ネット通販の売上拡大を狙う。
モンデリーズの主要株主になったアクティビストのウィリアム・アックマン率いるパーシング・スクエア・キャピタルマネジメント社は、モンデリーズを食品業界でコスト削減余地が一番大きいと考えている。
3)キーとなる英文
Mondelez International Inc. detailed progress in its cost-cutting efforts and plans for healthier products and more online sales, as the global snacks-and-sweets giant continues to retool its business under pressure from activist investors.
4)キーとなる英文の和訳
モンデリーズ・インターナショナル社が詳細を明らかにしたのは、コスト削減策と、ヘルシー商品の開発・ネット売上拡大の計画についての途中経過である。
というのも、世界的なスナック・菓子の大手企業がアクティビストの圧力を受けて、構造改革を続けているからである。
5)気になる単語・表現
retool | 他動詞 | ~を改組(再編集)する;~の機械を入れ替える |
saturated | 形容詞 | 飽和した |
saturate | 他動詞 | ~を完全に浸す;~を一杯にする |
whole grain | 名詞 | 全粒粉 |
(今回ピックアップ英単語)
【saturate】
(解説)
「浸す」「一杯にする」という意味に、「完全にcompletely」というニュアンスが入る。
それが比喩的に発展して、「~に没頭させる(with,in)」という意味に発展。
経済的には、「(市場に)商品を過剰供給させる」という意味もある。
「~に没頭させる」
(例)She is saturated with American drama.
「彼女はアメリカ演劇の研究に没頭している。」
「~に商品を過剰供給させる」
(例)The market for this product is saturated.
「この製品の市場は供給過剰になっている」
(専門用語)
Saturated fat 「飽和脂肪(肉・乳製品などに含まれ、血中コレステロール値を高める作用がある」
(類義語)
「浴びる」 bathe, shower, soak up
「ずぶ濡れになる」 be wet through
6)ビジネスのヒント
モンデリーズ・インターナショナル社が構造改革を進める背景に、アクティビストの存在があるのは間違いありません。ただ、これはモンデリーズだけのことではなく、食品業界全体に言えること。アメリカでは、大手食品メーカーが、アクティビストの標的になっているのです。その理由は、今後M&Aにより再編見込みがあるから。M&Aが起これば、高値で持ち株を引き取ってもらえるので、株主は儲かります。アクティビストはそれを狙って、投資した食品メーカーをより収益性の高い企業にして、M&Aの対象になることを狙っているのです。
食品業界に再編が起こりやすいのは、成熟した産業の割にプレーヤーが多い(日本はさらに多い!)というのもあるのかもしれません。直近に起こった大きなM&Aとして、アクティビストの3Gキャピタルとバフェット率いるバークシャー・ハサウェイによるハインツの買収。そして、その後3Gキャピタル主導で起こったハインツとクラフトの合併です。クラフト・フーズは、元々モンデリーズの北米食品事業。クラフトとハインツが一緒になったのなら、次はモンデリーズが再編の対象になっても不思議ではありません。
そのモンデリーズは、アクティビストの圧力によって、4つからなる成長戦略を描いています。
【モンデリーズの成長戦略】
- コスト削減
- マーケティングにSNS・その他ネットメディアの活用強化
- 新市場への参入とヘルシー商品の開発
- ネット通販強化
1はその名の通りコスト削減であり、2~4は売上向上策です。当たり前ですが、いずれも収益拡大に寄与します。より具体的に見てみましょう。
【モンデリーズのコスト削減策】
- ゼロベース予算の採用による本部コストの削減
- 管理プロセスのシンプル化
- 製造設備のリストラ
【ヘルシー商品の開発】
- 2020年までに飽和脂肪酸と食塩を10%削減
- 全粒粉を25%増加
- 人口着色料・人工甘味料の使用中止
【ネット通販強化】
2020年までにネット通販売上比率を全加工食品売上の10%に
まずはコスト削減について、要は販管費の削減と製造の効率化。本社コストの削減とは、恐らく人員削減でしょう。それを実行するために、管理プロセスを簡略化するのだと予想できます。組織をよりフラットにすれば、管理部門の人はさほどいらないですから。
ヘルシー商品の開発は、もちろん消費者ニーズへの対応に他なりません。消費者は、自分が知っている原材料の商品を求めているので、できるだけ台所などで使われる一般的な原材料を使う方針のようです。ヘルシー商品の開発・投入は、菓子業界だけのことではなく、加工食品全体のトレンドです。
ネット通販については、モンデレス社内で最も売上成長率の高い販路とのこと。ただ、今の売上はまだ1億ドル未満なので、2020年には10億ドルにまで持って行こうとしています。ちなみに、モンデリーズ全体の売上は、約340億ドル。10%まで引き上げて10億ドルなので、加工食品売上の売上は約100億ドルと推定できます。
マーケティング・新市場への参入は特に詳細な記載はありません。ただ、新市場への参入については、”introducing its products into new markets”と表現されているので、既存商品をこれまで販売していなかった国・地域に販売すると想像できます。
では、なぜ成長戦略の一番目がコスト削減なのでしょうか?それは、
成熟産業のため、コスト削減以上に収益向上が期待できる策がないから
でしょう。できるだけ確実に、できるだけ早く収益向上を目指すアクティビストにとって、コスト削減が最適な収益向上策なのでしょう。本部コストの削減と管理プロセスのシンプル化によって販管費を削減するとともに、製造設備のリストラによって製造効率の向上・製造コストの削減を狙っているのです。
日本とは違って、アメリカはいまだ人口増加が続いています。ならば、有名ブランドを持つ大手食品メーカーにとっては有利かと思いますが、実際には、消費者のヘルシー志向は高まり、体に悪そうな加工食品離れが起こっています。その一方で、有機・ナチュラル食材が売上を伸ばし、この分野に中小企業の参入が増えているのかもしれません。大きなイノベーションが期待できない成熟産業で、しかも消費者の離反が起こっていれば、売上拡大よりもコスト削減で収益拡大を狙った方が確実です。
マーケティングや商品開発・ネット通販などによる売上向上策には、新規性がありません。どちらかというと、しなければ失いかねない顧客の防衛策のようです。SNS・ヘルシー商品・ネット通販は旬なビジネスであるので、競争の激しさは明らか。モンデリーズが目標とするネット通販比率からみても、さほど大きな成功が見込めないと考えているのかもしれません。(というか、単価が低く購入頻度の高い商材特徴から、ネット通販には不向きとも言えますが)
経営学者の三品先生の言葉を借りれば、従来通りの成熟した事業立地で戦っているので、コスト削減以上の収益拡大策は見つけにくいのでしょう。そういう意味では、家庭ユースから職場ユースにして、さらに毎回課金からサブスクリプションにすることで、事業立地を変えたネスレ日本の販売戦略こそ、モンデリーズは学ぶべきかもしれません。
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《今回のヒントのまとめ》
- モンデリーズ社が、成長戦略の一番目にコスト削減を掲げたのは、成熟産業の中でコスト削減以上の収益向上策が見つからないからではないか。
- また、収益向上に確実性とスピードを求めるアクティビストの圧力も、大きく影響していると言えるだろう。
- モンデリーズのコスト削減策は、本部コスト削減による販管費の削減と製造拠点のリストラによる製造効率化である。
- 売上向上策として、ネットメディアのマーケティング活用や新市場参入・ヘルシー商品の開発、ネット通販の強化を入れたが、いずれも新規性に欠け、さらに競争が激しい分野だけあって、大きな成功は見込めにくい。
- 消費者のヘルシー志向など逆風の吹く加工食品だが、ネスレ日本のように事業立地を変えることで、収益性の向上の伴う成長は可能ナノではないか?
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7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
記事で取り上げた三品さんとは、神戸大学経営学部の教授。
面識はないですが、最近三品さんが書かれた書籍を読みました。
利益率向上の伴う成長戦略には、成熟した立地から飛び地に移る必要があるというのが、その持論。
新しい立地は、既存事業の周辺である必要はなく、儲かるかどうかがその選択基準であり、だからこそ飛び地の方がいいようです。
携帯電話の門外漢のアップルがiPhoneを開発したように。
起業・新規事業を考えている人には、とても役立つと思います。
再度読みたいと思った書籍です。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、5年経ちました。
この5年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
もちろん、儲かるからとって参入しても成功する保証はありません。
成功の必要条件として、情熱は必要。
飽きっぽい私には、ここが難点。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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2015/09/23 | ウォールストリート・ジャーナル, 食品業界 商品戦略, 成長戦略, 組織戦略
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