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【962号】食料品版ウーバーのインスタカートがコスト削減を余儀なくされた理由とは?

 Groceries

◎本日のニュース

1)見出し

Grocery-Delivery Startup Instacart Cuts Pay for Couriers

 

 

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2)要約

食料品の配達代行事業を行うインスタカート社は、ショッパーと呼ばれる配達人に支払う配送手数料を引き下げた。この背景には、オンデマンド型スタートアップ企業の資金調達が難しくなったという外部環境の変化がある。

 

手数料を引き下げる表向きの理由は、配達人の収入を安定化させるためであり、一時間あたりの最低保証金額は引き上げている。しかし、配達人の収入減少は避けられない。また一方で、利用者に課金する価格も引き上げている。

 

コストカットと価格引き上げを余儀なくされるのは、ビジネスモデルに問題があるからとも考えられる。実際、同様のウーバー系サービスで苦戦する企業が増えている。

 

3)キーとなる英文

Instacart Inc. is cutting the fees it pays couriers who shuttle groceries in several cities, the latest Silicon Valley on-demand startup trying to contain costs in a tightened funding environment.

 

4)キーとなる英文の和訳

インスタカート社が下げているのは、特定の都市で食料品を運ぶ配達人に支払う手数料でる。

これは、シリコンバレーのオンデマンド型スタートアップが、厳しくなった資金調達環境で、コスト削減に努める最新事例である。

 

5)気になる単語・表現

blunder 名詞 誤り;大失敗
shuttle 自動詞 ~を左右に動かす
drop-off 名詞 降ろすための指定場所;(急な)減少、下落
variability 名詞 変動性
summon 他動詞 ~を召喚する;~を呼び出す
well-heeled 形容詞句 金持ちの
rein 他動詞 ~を抑える
pull back 自動詞句 取りやめる
hail 他動詞 ~を迎える
revamp 他動詞 ~を改良する
classification 名詞 分類

 

(今回ピックアップ英単語)

heel

(意味)

  1. (人の)かかと;手のひらの手首よりの部分
  2. (ゴルフ)クラブのヒール;(物の)端切れ、後部
  3. ~のすぐ後に続く
  4. (靴など)にかかとを付ける

(コメント)

「well-heeled」は、「優れたかかと→高いかかと→高いところに手が届く→金持ちの」という推移でしょうか。

6)ビジネスのヒント

インスタカートについては、以前にも取り上げました。

【839号】破綻事例のあるビジネスなのに、資金調達に成功したインスタカートのビジネスモデル

 

この号では、インスタカートが資金調達に成功したのは、ドットコムバブルで失敗した同業のウェブバンを反面教師にして、外部リソースを活用して固定費を抑えたからだと述べました。所謂、「ウーバーfor X」の食料品版です。しかし、そのインスタカートの雲行きがおかしくなりました。そのため、コストカットと値上げに動いています。

 

まずは、インスタカートのビジネスモデルを、簡単にまとめておきます。

 

【インスタカートのビジネスモデル】

  1. 一般消費者向けの食品配達ビジネス。食料品在庫と配達は、スーパー・提携配達人という外部リソースを活用。
  2. 収益源は、利用者に課す送料と商品ごとの追加料金、スーパーからの手数料
  3. 提携配達人に対しては、1回毎の配達基本料とアイテムごとの配達料を支払う

 

2の追加料金は、インスタカートの商品価格とスーパーでの価格との差額。つまり、利用者は、インスタカートのサービスを利用するにあたり、割高な価格を支払わなければなりません。入っている2と出て行く3の差額が、インスタカートの売上となります。

 

次に、インスタカートが行っているコストカットと値上げをまとめると、次のようになります。

 

【インスタカートが実施したコストカットと値上げ】

  1. 配達基本料の引き下げ(サンフランシスコでは4ドル→1.5ドル)
  2. アイテムごとの配達料の引き下げ(サンフランシスコ50セント→25セント)
  3. 一部の契約配達人を直接雇用に転換
  4. 人材採用を担当する従業員の多くを解雇
  5. 利用者が負担する送料の引き上げ(99ドル→5.99ドル)
  6. 無料配達会員の年会費引き上げ(99ドル→149ドル)

 

1・2は変動費の削減、3・4は固定費への転換・削減、5・6は値上げです。つまり、コストを下げて、客単価引き上げによる売上増で、利益率を高めようとしていることがわかります。逆に言えば、従来のモデルは、収益性が期待に届かないほど低かったのです。

 

このような構造改革(リストラ)に動いた背景には、次のような外部環境の変化があります。

 

【インスタカートがリストラを余儀なくされた外部環境の変化】

  1. 金融市場の混乱・IPO失敗事例の多発から、資金調達が難しくなったから
  2. 食品宅配ビジネス・ウーバー型ビジネスの競争激化

 

1について、これまでは、少々の赤字でも成長が見込めれば、巨額の資金調達が可能でした。しかし、年初からの金融市場の混乱、そして期待時価総額に遠く及ばなかったIPOの失敗が続いたことで、収益性よりも成長性を高く評価するという状況が一変しつつあるのです。だから、インスタカートはリストラにより収益性の向上を余儀なくされているのです。

 

2について、「ウーバーfor X」と呼ばれるウーバー型ビジネスは、筍のように増加しています。さらに、食品配達ビジネスも、アマゾンやグーグルなど大手企業までもが参入し、競争激化。食料品版ウーバーというビジネスモデルのインスタカートにとっては、両方の競争に巻き込まれることになり、収益悪化は避けられないのでしょう。

 

さらに、食料品の配達というインスタカートのビジネス自体に無理があるという指摘もあります。具体的には、悪くなりやすい生鮮品を一時間以内に配達するサービスは、何かしらのイノベーションが必要です。これに対し、インスタカートが提示したのは、配達できる一般人の活用。難題をクリアするために、提携配達人に支払う料率を高めに設定していたのかもしれません。しかし、それでは収益性が低いままであり、しかも売上が増加しても、規模の経済が働きません。もともと収益性が低いビジネスモデルだっただけに、構造改革が必要とされたのです。

 

この改革が成功するかどうかはわかりません。少なくとも、これまで20アイテムの一回の配達で15ドル稼げた配達人が、新たな料率では12.5ドルしか稼げなくなります。その結果、提携契約人の離反を招く恐れは免れません。さらに、利用者への課金も値上となり、客離れが今後深刻化するかもしれません。何かしら、配達人の負担にならずに、利用者が魅力的に感じるサービスは必要でしょう。

 

一方で、すぐさま破綻するということもないでしょう。もともと固定費の低いビジネスなので、売上が急減しても、すぐさま資金繰りに困るということも起きづらい。

 

今回のインスタカートの事例から学べるのは、次の2つ。

 

【構造改革を余儀なくされたインスタカートから学べること】

  1. ウーバー型ビジネスは参入障壁が低いだけに、競争激化・収益悪化しやすい
  2. 食料品は比較的粗利益率が低いだけに、相当規模を大きくしないと魅力的な収益性を実現できない

 

1について、外部リソースを最大限に活用するウーバー型ビジネスは、初期投資・固定費が低いだけに、参入しやすい事業です。だからこそ、似たようなサービスが筍のように生まれ、競争激化は不可避なのかもしれません。ウーバ型以外の差別化要素は、必須と言えるでしょう。

 

2について、食料品の宅配は、需要が顕在化しているだけに売上を上げやすい一方で、粗利益率が低いという欠点があります。だからこそ、シェアを拡大して、規模の経済を働かせる必要があるのかもしれません。

 

ただし、外部リソースに依存するインスタカート場合、規模の経済を働かせるのは、相当難しい。アマゾンのように巨大倉庫を構えるわけにはいかないからです。だからこそ、粗利益率の高い別の商材を、宅配ビジネスに加える必要があるのではないでしょうか。金子哲雄さん風に言えば、食料品を集客商品にして、別の商材を収益商品にするという考え方です。今のところ、そのような予定はないようですが。

 

 

 

 

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《今回のヒントのまとめ》

  1. インスタカートは、提携配達人に支払う料率を下げる一方で、利用者に課金する価格を引き上げている。また、人員削減を実施し、固定費の削減にも力を入れている。
  2. このような構造改革に動く背景には、資金調達環境の悪化と競争激化という外部環境の変化がある。また、そもそも一時間以内に悪くなりやすい生鮮品を配達するビジネス自体に無理があったことも、否めない。
  3. インスタカートの構造改革から学べるのは、ウーバー型ビジネスは参入障壁が低いだけに、競争激化に陥りやすいということである。変動費が高いモデルだけに、収益性の向上もさほど期待できない。
  4. また、粗利益率が比較的低い食料品の手数料ビジネスは、収益を拡大するには規模の経済を働かせる必要がある。ただし、インスタカートは外部リソースに依存するモデルだけに、規模の経済は働きにくい。
  5. 結局、食料品の宅配で集客し、粗利益率の高い別の商材の販売で利益を上げるしかないのではないか。

 

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7)おすすめ商品・サービス

◎最近見つけたいいもの

クリアアサヒから新商品が発売されました。

その名もクリアアサヒ・プライムリッチ。

以前から販売されていたので、リニューアルになります。

リニューアル前の商品も飲んだことがあるのですが、今回の新商品の方が、泡立ちがきめ細やか。

この点はサッポロの麦とホップも同じなのですが、コクはプライムリッチの方が上ですね。

麦とホップは少し物足りない。

次からはブランドスイッチするかもしれません。

それだけ美味しかったということ。

アサヒ クリアアサヒ・プライムリッチ

 

もちろん楽天市場にも売っています。

 

◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語

WSJメルマガを始めてから、7年経ちました。

この7年間でわかったことがあります。

読む上で知っておくべき単語さえわかれば、

大まかな内容はわかるということ。

備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。

今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。

english.ryotarotakao.com/

 

◎Winecarte 簡単ワインの選び方

ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、

ワインの情報を探すのが大変ということ。

公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、

作っています。

wine.ryotarotakao.com/

 

編集後記

日本では、セキュリティ上の問題から、インスタカートのような一般人を配達に使うビジネスは難しいでしょうね。

考えられるのは、生協などの配達インフラを持っている企業が、そのインフラを食料品以外の販売に使うことでしょうか。

まぁ、日本はアメリカほどスーパーが混んでいないので、生鮮品の宅配ニーズはさほど高くないでしょうね。

WSJ記事のコメントにもありますが、アメリカ(特にニューヨークなどの大都市)のスーパーの混み具合はひどいみたいですよ。

 

 

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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。

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