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【1077号】高級百貨店を襲った”ニーマン・ショック”とは?

Neiman Marcus Shops At Merrick Park

 

◎本日のニュース

1)見出し

Neiman Marcus Finds Even Wealthy Shoppers Want Better Deals

 

 

毎週火曜・土曜の18時、メルマガにて配信。

(サイトへの掲載は、翌日以降です。)

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2)要約

高級百貨店を運営する小売企業は、大型の店舗閉鎖を余儀なくされた大衆向け小売業とは異なり、絶え間ない単価引き上げによって収益拡大を行ってきた。しかし、この勝利の方程式も成り立たなくなっている。

 

というのも、経済的に余裕のある消費者も価格に敏感になり、より割安なネット通販やブランド直営店で買うようになったからである。また、大手百貨店や大手ブランドは、クールではないという認識が広がっていることも、向かい風となっている。高級百貨店のニーマン・マーカスの場合は、さらに負債という独自の重荷を背負っている。

 

3)キーとなる英文

But high-end chains, which raised prices incessantly over the past decade, are learning the hard way that even wealthy customers are hunting for better deals and selection, whether online or at shops run by individual brands.

 

4)キーとなる英文の和訳

しかし、高級品を取り扱うチェーンは、過去10年間に絶え間なく単価を引き上げてきたが、今ではそれも難しくなっている。

というのも、経済的に豊かな顧客でさえ、ネット通販か個別ブランドの直営店のいずれかで、より安い価格や豊富な品揃えを探しているからである。

 

5)気になる単語・表現

immune to 形容詞句 (伝染病・毒など)に免疫のある;(物事)に影響を受けない、感じない
constant 形容詞 絶え間なく続く
incessantly 副詞 絶え間なく
storied 形容詞 物語で名高い
coincide with 自動詞句 ~と一致する;~と同時に起こる
wipe out 他動詞句 ~を食べ尽くす
clout 名詞 コツンとたたくこと;勢力
relentless 形容詞 絶え間ない、間断ない
champion 他動詞 ~を擁護する
pay-in-kind 名詞 現物払い
plaque 名詞 表彰盾
flip 他動詞 (スイッチなど)をバチンと入れる
date to 自動詞句 ~にさかのぼる
eschew 他動詞 ~を避ける
falter 自動詞 (商売などが)さびれる
note 名詞 手形
rationale 名詞 理論的根拠
spook 他動詞 ~を驚かす
secular 形容詞 この世の
cyclical 形容詞 景気に左右される
cachet 名詞 印;威信、名声

 

(特に覚えておきたい単語)

【絶え間ない】

constant = happening all the time or repeatedly

incenssant = never stopping

relentless = not stopping or getting less strong

→relent 「優しくなる;態度が軟化する;(厳しい天気などが)和らぐ、弱まる」

 

(コメント)

今回はすべて、高級百貨店が連続的に単価を引き上げてきたことで使われている。

 

6)ビジネスのヒント

アメリカの高級百貨店が苦境に陥っているようです。ただし、高級百貨店の衰退は、アメリカだけではなく先進国全体に起こっているようなもの。もちろん、日本でも百貨店という業態は市場縮小に直面しています。

 

この背後には、もちろん消費行動の変化が。消費財を扱う企業は、常に消費者の変化の影響からは逃れられません。

 

【高級百貨店が苦境に陥った理由】

経済的に余裕のある消費者ですら価格に敏感になり、単価引き上げ戦略が成功しなくなったから

 

これまでは、単価を引き上げることにより、収益を拡大してきました。単価を引き上げる(raise prices)とは、「値上げ」という意味ではなく、「より単価の高い商品の販売」という意味でしょう。より高級な商品を販売することにより、客単価を引き上げ、客数の低迷を補ってきたのです。しかし、この単価引き上げ戦略が今ではうまく行きません。というのも、価格の高い商品が売れないからです。消費者が価格に敏感になったという証拠です。

 

富裕な消費者でさえ価格に敏感になった背景には、ネット通販市場の拡大があります。いや、もっと言えばネット利用機会が増えることで、入手できる情報量が格段に増加したからでしょう。

 

より安く購入できるお店がわかれば、だれでもそこで買いたいと思うもの。その結果、これまで高級百貨店で購入していた顧客は、より安く販売しているネット通販やTJマックスなどのアウトレット店で買うようになります。

 

また、情報量の拡大により、より豊かな品揃えを求めるようになります。その結果、これまで高級百貨店で購入していた顧客は、限定品などを販売する直営ブランドショップで買うようになります。このように、高級百貨店は、顧客をネット通販・アウトレット店・ブランド直営店に顧客を奪われているのです。

 

また、入手できる情報量の拡大以外にも、次のような要因が消費行動の変化をもたらしています。

 

【その他の消費行動の変化要因】

  1. 大型・有名ブランドよりも小型・個性的なブランドを選好する消費者ニーズ
  2. 大幅値引きで高級品を売りさばくスタートアップ企業の登場(ファーフェッチ・ドットコム、マッチーズ・ファッション・ドットコム)

 

1について、自分の個性を出そうと思えば、誰でも知っている大型ブランドよりも小型で個性的なブランドの商品を持てばいいのです。これだけ情報量が拡大すれば、個性を出すのはなかなか難しいもの。だからこそ、有名・大型ブランドよりも個性的な小型ブランドの方がクールに思われるのです。

 

2について、従来高級ブランドは流通ルートを限定することで価格を保ってきました。しかし、今では高級ブランド商品を大幅値引きで販売するスタートアップ企業が登場したので、所謂”価格統制”が成り立ちません。もちろん、スタートアップ企業が大幅値引きできるのは、高級ブランドが商品を卸しているから。記事では触れられていませんが、多くの高級ブランドが上場企業傘下に入ったことにより、収益拡大を目指す上場企業は高級ブランドの生産量・品揃えを拡大したのでしょう。その結果、需要よりも供給が大きくなり、処分売りせざるを得ない状況になったのだと思われます。実際データでは、高級品の約37%(2016年)が値引き販売されているようです。(2015年は32%)

 

実際、世界的に見て高級品市場は4%拡大(2016年)していますが、個人向け高級品市場はリーマン・ショック後初めて縮小しています。(2016年1%減)

 

このような顧客流出に対して、高級百貨店は次のような対策を講じています。

 

【高級百貨店の顧客奪還作戦】

  1. 独自のアウトレット・ディスカウント業態の開発
  2. 割安商品導入による若者の集客拡大
  3. 割安品主体の若者向け業態の開発
  4. レンタルサービスとの提携による拡大するコト消費への対応
  5. 利用できるクレジットカードブランドの拡大
  6. ネット通販への投資拡大

 

1について、例えばニーマン・マーカスはラストコール、サックスはオフフィフス、ノードストロームはノードストロームラックというアウトレット・ディスカウント業態を開発しています。TJマックスに顧客を奪われるなら、独自で進出した方がマシと考えたのでしょう。

 

2はニーマン・マーカスが行っています。割安さを重視する若者を集客するために、従来の高級百貨店業態の店舗の割安な商品を導入しているのです。高単価商品を導入することで収益拡大を狙っていた戦略とは真逆と言えます。

 

3もニーマン・マーカス。ベビーブーマー世代の次の若い世代(恐らくミレニアル世代)を獲得するために、カスプという新業態を開発しています。より単価の低いアパレル品やアクセサリー主体のようです。

 

4もニーマン・マーカス。高級ブランド品のレンタルサービスを行うレント・ザ・ランウェイと提携し、高級百貨店業態で高級ブランド品のレンタルサービスを実施しています。記事では書かれていませんが、これはミレニアル世代が好むコト消費に対応したものでしょう。

 

5についても、ニーマン・マーカス。従来はアメックス・独自ブランドのクレジットカードしか受け付けなかったのですが、ビザ・マスターカードも可能にしました。客層を広げようという試みです。

 

6は、ネット通販市場の拡大に対応したもの。ニーマン・マーカスはネット投資拡大が奏功し、業界全体の平均以上にネット通販比率が高まっています。(2016年31%、業界全体では8%だけ)

 

ここまで高級百貨店全体を見てきましたが、ここからはニーマン・マーカス・グループ社に焦点を当てようと思います。というのも、この記事自体がニーマン・マーカスメインだからです。

 

このように消費行動の変化に対応してきましたが、ニーマン・マーカスの場合、ネット投資以外はさほど大きな効果が出ていません。若者の集客を目指していますが、割安さ一番の若者相手では、客単価はさほど上がりません。よって、なかなか売上は伸びないのです。また、高級ブランドを購入するとしても、クラシックな定番品を好む傾向が強いため、購入頻度がとても低いのです。新作をバンバン買ってくれていた時代とは明らかに違います。

 

また、ニーマン・マーカスには、次のような売上減少要因が襲います。

 

【ニーマン・マーカスを襲った売上減少要因】

  1. 原油価格暴落によるテキサス富裕層の消費激減
  2. ドル高による訪米外国人売上の減少

 

1がなぜニーマン・マーカスに関係あるかと言えば、ニーマン・マーカスの本社がテキサス州にあるから。ニーマン・マーカスの収益はテキサス経済にリンクしているのです。だから、原油暴落の悪影響を大きく受けることになります。

 

2はアメリカ主体の高級百貨店全体の要因。円安で日本の百貨店が潤っている一方で、ドル高でアメリカの高級百貨店は苦境に陥っていたのです。

 

さらにニーマン・マーカスは、大変重い財務問題を抱えています。端的に言えば、巨大な負債。相次ぐ投資ファンドによる買収により、負債が膨れ上がりました。買収により負債が増幅したのは、

 

  1. レバレッジを活用した買収だったため
  2. 買収後は負債削減よりも投資が優先されたから

 

という2つの理由から。投資ファンドがレバレッジを掛けた買収を行った後、少しずつ負債を削減してきましたが、再度別のファンドがレバレッジドバイアウトを仕掛けました。その結果、長期負債額は約60億ドルを超えるまでに膨れ上がっています。ちなみに、直近四半期(第二四半期)の総売上金額は約14億ドル。そして総資産は約87億ドル。負債額の大きさがわかるかと思います。

 

【ニーマン・マーカスが抱える重い負債額】

Q2総売上金額 約14億ドル

総資産 約87億ドル

長期負債額 約65億ドル

 

この大きな負債と売上不振により、IPOが中止に追い込まれました。そこで、投資ファンドは新たなイグジット手法として、同業のサックスフィフスアベニューを傘下に持つハドソンズ・ベイ社に売却を打診しています。

 

【注目点】

  1. 仕入れ販売の場合、ブランド・メーカー直営店が競合となる
  2. 高級業態がアウトレット・ディスカウント業態に進出すると、ブランドイメージが毀損し、ブランドロイヤルティが低下する恐れがある
  3. 値ごろ感は高級業態にも求められる
  4. 負債は経営の選択肢を狭める

 

1について、百貨店のような仕入れ販売の場合、ブランド・メーカーの直営店が今後競合になりかねません。一方のメーカー・ブランド側は、直営店を出店することで、顧客との接触機会を増やし、ブランドロイヤルティを高めようとしています。仕入れ販売の場合は、ブランド・メーカーにはない価値(品揃えなどのサービス)を提供する必要があります。

 

2について、記事に高級百貨店企業がアウトレットに進出したことが紹介されていますが、高級品とアウトレットとはほぼ全く逆の業態。この結果、ブランドイメージが低下する恐れがあり、それがロイヤルティの低下になりかねません。もちろん、カニバリの恐れもあります。

 

3について、今回の記事では、相対的に豊かな消費者でも価格に敏感になったことが取り上げられています。値ごろ感はどの業態でも求められているのです。

 

4について、負債はうまく活用すれば、財務効率を高めROEを向上できます。その結果、株価も上昇することでしょう。しかし、総売上・総資産と比較して負債が大きくなりすぎれば、経営上の選択肢を狭めかねません。まさに、ニーマン・マーカスの現状はそれであり、同業への売却しか手立てがないのです。

 

今回の記事は、消費動向と企業財務をあわせたボリュームの大きな記事でした。それだけ読み応えがありましたが、ニーマン・マーカスがここまで疲弊していたことには驚きました。そう言えば、日本でも百貨店メインの三越伊勢丹ホールディングスも、売上不振により社長が交代したばかり。世界的に高級百貨店には逆風が吹いているようです。

 

タイトルにした「ニーマン・ショック」とは、消費行動の変化に直面した高級百貨店を表現したもの。さらに、ニーマン・マーカス独自のショックとしては、大型負債もあります。

 

(記事で紹介された各種業態・サービスなど)

Farfetch.com(高級品の処分販売スタートアップ)

www.farfetch.com/

Matchesfashion.com(高級品の処分販売スタートアップ)

www.matchesfashion.com/

T.J.Maxx(高級ブランドのアウトレット専門店)

Last Call(ニーマン・マーカスのアウトレット業態)

www.lastcall.com/

Saks Off 5th(サックスフィフスアベニューのアウトレット業態)

www.saksoff5th.com/Entry.jsp

Nordstrom Rack(ノードストロームのアウトレット業態)

www.nordstromrack.com/

Cusp(ニーマン・マーカスの若者向け業態)

www.neimanmarcus.com/CUSP/cat58930763/c.cat

Rent the Runway(ニーマン・マーカスが提携した高級ブランド品レンタルサービス)

www.renttherunway.com/

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《今回のヒントのまとめ》

  1. 高級百貨店の収益が減少しているのは、経済的に余裕のある消費者でも価格に敏感になったから。より割安なネット通販や限定品など豊富なブランド直営店に顧客を奪われている。
  2. また、高級ブランドをアウトレット価格で処分販売するスタートアップの登場や、より個性的で小型なブランドを選好する消費者ニーズにより、有名大規模ブランド・チェーンには逆風が吹いている。これらが高級百貨店に起こっている「ニーマン・ショック」である。
  3. これに対し、高級百貨店は、独自のアウトレット業態の開発や、若者の専門ブランド・業態の開発や、コト消費への進出、利用可能クレジットカードの拡充、ネット通販への投資拡大などで対抗している。
  4. 高級百貨店のニーマン・マーカスには、本拠地のテキサスを襲った原油価格の暴落や巨大な負債が大きな課題となっている。
  5. 情報量の拡大のより、経済的に余裕がある層ですら、値ごろ感を重視する。また、企業規模と比べて巨大な負債は、経営上の選択肢を狭めかねない。

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Neiman Marcus Aloha Cookies Hawaiian Brands Kona Coffee & Macadamia Nut 2oz(56g) ニーマンマーカス アロハクッキー コナコーヒー&マカダミアナッツ
by カエレバ

 

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(サイトへの掲載は、翌日以降です。)

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7)おすすめ商品・サービス

◎最近見つけた気になるもの

またまたふるさと納税ネタ・小正醸造ネタです。

 

ふるさと納税で頂いた3升の焼酎が、予想以上に美味しかった。

フルーティーな黄猿しかまだ飲んでいませんが、あまりの美味しさにもったいなく感じ、ちびちび飲むほどです。

ここまでフルーティーな芋焼酎を飲んだことはありません。

さらに、ワイン酵母で仕込んだ麦焼酎の白猿は、飲むのが楽しみで仕方がありません。

今年もいただこうかと思います。

日置市さん・小正醸造さん、ありがとうございます。

 

【ふるさと納税】赤猿・黄猿・白猿の1升瓶3本セット 小正醸造

 

もちろん、楽天市場で販売もありますよ。

いいもの作るなぁ、小正醸造さんは。

 

 

編集後記

久しぶりに、9ページに渡る大型記事を取り上げました。

やはり時間が掛かりますねぇ。

もう少しスピードアップして、まとまった記事にしたいものです。

 

高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao

高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com

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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。

感謝・感謝・感謝です!

 

 

 

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私もごく少ない部数の時に、

いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、

今回は私が恩返しします!

 

 

 

 

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