【706号】欧州自動車市場の将来が米自動車市場より期待できない理由
by courtesy of Mike Lee
◎本日のニュース
1)見出し
Europe’s Car Makers Spin Their Wheels
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2)要約
景気回復に向かう欧州において、自動車売上のV字回復を期待する声もある。実際、我慢されてきた買い替え需要が積み上がり、来年からは減少から増加に転じるとされている。しかし、この回復は一時的なものに過ぎない。その理由は、構造的な問題を抱えているからである。
自動車売上の減少は、債務危機による景気後退だけが要因ではない。債務危機前から、自動車市場が縮小する兆候が見られる。自動車に対するニーズ自体が変容しており、慢性的な供給過剰を縮小するリストラは今後も避けられないだろう。
◎キーセンテンスとその翻訳
3)キーとなる英文
Whenever the Continent crawls back from its debt-crisis ravages, its auto market likely won’t.
4)キーとなる英文の和訳
ヨーロッパが債務危機の荒廃から徐々に回復したとしても、自動車市場は回復しないだろう。
5)気になる単語・表現
crawl |
自動詞 |
のろのろ進む;(蛇・虫・人などが)はう |
ravage |
名詞 |
荒廃、破壊;損害、惨事 |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
記事では、まず高級車好きの金融コンサルタントの事例が、紹介されています。彼は、これまで高級車を乗ることにステータスを持ち、高級車のために貯蓄してきました。しかし、債務危機に端を発する景気後退により、この習慣が無くなります。自動車の購入をやめるどころか、自動車を売却してしまったのです。自動車を運転する代わりに、公共交通機関やバイク・カーシェアリングサービスを、利用しています。そして、自動車の購入・維持をやめて浮いたお金を、将来に起こりうる景気後退や定年後の備えとして貯蓄しています。
これだけを見ると、景気後退によって消費者の自動車ニーズが変化したと読み取れますが、景気後退だけが要因ではありません。もっと、根深い構造的な問題により、自動車売上が減少しているのです。
構造的な問題を含めた、自動車売上が減少した要因をまとめると、次のようになります。
【欧州自動車市場が縮小する要因】
[1] ガソリン価格上昇
[2] 自動車の耐久性向上
[3] ステータスシンボルとしての存在低下
[4] 労働年齢人口・若年層の減少→構造問題
[5] 若年層の高い失業率
[6] 行き届いた公共交通機関の存在
[7] 景気後退による支出見直し・買い物習慣の変化
1について、ガソリン価格が上昇したことにより、自動車の利用や所有が減少します。所有の減少は、そのまま売上減少につながり、利用の減少は買い替えサイクルの長期化を通じて、売上が減少します。これは、既存顧客の減少に他なりません。しかし、ハイブリッド車などの省エネ車両が普及すれば、この問題は解決されます。
2について、自動車が故障しにくくなれば、それだけ買い替え機会が減少します。買い替えサイクルが長期化し、売上が減少するのです。1同様、これも既存顧客の減少になります。自動車利用が減少すれば、さらに消耗が少なくなるので、買い替えサイクルは長期化します。実際、自動車の買い替え年数は、2009年の7.9年から、2012年には8.7年に上昇。買い替え需要の減少であり、景気回復による売上拡大がさほど見込めないことになります。
3について、自動車所有がステータスシンボルで無くなることにより、免許取得数・自動車所有数は減少します。これは顧客の喪失であり、そのまま売上減少になります。これはヨーロッパだけの問題だけでなく、先進国全体が直面しており、過去10年と比較して、免許取得する若者数は減少しています。
4について、この人口問題こそが、ヨーロッパが抱える構造問題です。出生率の低下により、15~65歳までの労働年齢人口は、2011年をピークにして、次の10年で1.4%減少するとされています。この結果、2020年までに年間約40万台の売上が消失するようです。パイ自体の縮小であり、既存・新規を問わず顧客の喪失になります。
5について、これは債務危機による景気後退が要因。仕事のない若者が増えると、初回自動車購入層が縮小します。実際、自動車好きの国民性で、ヨーロッパで一番経済状況が良く、最大の自動車市場であるドイツでさえ、30歳未満の新車購入率が、99年の6%から2013年前半には2.7%に低下しています。年齢による人口比率に変化はほとんどないので、若年層の人口減少ではなく、自動車ニーズの減退がその要因になります。若年層は自動車市場に入ってくる消費者層なので、新規顧客の減少につながります。
6は、要因というよりも、自動車離れを後押しするもの。公共交通機関が発達しているからこそ、自動車が無くても生活できるのです。付随的な要因と言えるかもしれません。
7は、先述の金融コンサルタントの事例の通り。景気後退により、多くの消費者は支出を見直しました。その結果、自動車の購入・所有の優先順位が下がり、購入・所有を諦めた人が増加。ただし、景気後退が要因ならば、景気回復によって自動車需要も復活するはずです。しかし、実際には景気後退前から、自動車販売の縮小の兆しはありました。例えば、
◯2000年代中頃には、ドイツ・フランス・イギリスの30歳未満の若者の自動車移動割合が、その10年前と比べて減少。→自動車よりも他の移動手段を使っているということ
◯2008年の18~34歳の自動車所有率が、98年の約80%から34.72%に減少。
を見れば、景気後退だけが要因ではないことがわかります。
このように、欧州自動車市場の回復は見込めないことがわかるのですが、先に景気後退を経験したアメリカ市場は、景気後退前の水準までV字回復しています。ならば、ヨーロッパ市場も、アメリカ市場同様にV字回復が期待されますが、ここで人口という構造問題が立ちはだかるのです。労働年齢人口が減少トレンドにあるヨーロッパに対し、アメリカでは2020年まで拡大するとされています。この差が、景気後退前の水準まで自動車市場が回復するかどうかを、決めているのです。
一方、ヨーロッパ市場と日本市場を比較すると、似ていることがわかります。
【欧州自動車市場と日本市場との類似点】
[1] 労働年齢人口・若年層の減少
[2] ステータスシンボルとしての存在低下
[3] 供給過剰問題の未解決
[4] 景気後退による市場縮小懸念
1・2のうち、1は酷似しています。人口減少という構造的な問題は、日本自動車市場を蝕むことになります。
3は、雇用を維持するために工場閉鎖を回避してきた点が、似ています。その結果、ヨーロッパでは、今後5年間で、新たに5~7工場と同じ生産量を減らす必要があるとされています。それでも黒字化するには、まだ12工場分足りません。それだけ、供給過剰問題は、深刻であり、今後のリストラが避けられません。実際、ルノーは、2016年までに7500人の人員削減を予定しています。
4は、欧州債務危機による景気後退が、日本のバブル崩壊による景気後退に似ているので、ヨーロッパも日本のように自動車市場が縮小する可能性が高いのです。日本の自動車市場は、90年代のピーク時から約30%縮小。この数字がそのまま当てはまると考えると、欧州自動車市場はお先真っ暗と言っても過言ではありません。
欧日と米における自動車市場の外部環境の違いをまとめると、次のようになります。
【欧日・米の自動車市場の外部環境の違い】
[欧日]労働年齢人口・若年層の減少予測→自動車市場の縮小懸念
[米]労働年齢人口の増加予測→自動車市場の拡大期待
人口だけが市場規模を決める要素ではありません。PCメガネのように、新しい用途が生まれると、人口減少の中でも市場が拡大することがあるからです。自動車市場ならば、高齢者向けの簡単運転のできる超コンパクトカーが生まれれば、高齢化するヨーロッパや日本でも、市場拡大が期待できるかもしれません。ただし、安全面などでクリアするべき問題が多数存在し、さらに新たな法整備も必要とされます。不可能ではないですが、かなりの時間を要することでしょう。一方で、中間層の拡大が期待できる新興国では、自動車需要は今後も大きく増加します。だからこそ、欧日の大衆車メーカーは、縮小する国内市場よりも新興国市場への売上拡大に力を入れるのです。
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《今回のヒントのまとめ》
1) 欧州経済は、債務危機による景気後退から回復基調にある。しかし、自動車市場は、経済全体ほどの回復は期待できないとされている。
2) その要因は、労働年齢人口・若年層が減少傾向にあるからである。
3) 人口減少だけでなくバブル崩壊による景気後退も日本と類似しており、日本同様の自動車市場の縮小が懸念される。
4) 一方、景気回復のアメリカで自動車が爆発的に売れているのは、労働年齢人口が増加傾向にあるからである。
5) 人口要因だけが市場規模を決めるものではないが、新用途が生まれない限り、人口減少の中での市場拡大は難しい。
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編集後記
日本の自動車メーカーも、アメリカや新興国向けの販売に力を入れています。
国内市場の将来に明るさがないからでしょう。
ならば、工場の海外移転は今後も避けられません。
自動車産業の雇用吸収力は低下するでしょうね。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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