【770号】米ATS社に学ぶ、技術者不足というビジネスチャンス
◎本日のニュース
1)見出し
Skilled Worker Supplier Fuels U.S. Manufacturing Revival
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2)要約
ベビーブーマー世代の定年退職が増えるにつれて、製造業は技術者確保に苦戦している。一方で、失業率は高止まりしているが、十分な技術力のある失業者・新卒は少ない。さらに、機械のコンピューター化は進み、必要とされる技術力水準は高まる。このギャップに目を付けたのが、アドバンスト・テクノロジー・サービス(ATS)社である。
ATS社は、機械の修理・メンテナンスをするために、他社工場に技術者を派遣している。高い技術力のある人材を確保するために、退役軍人や閉鎖した工場の従業員などを採用。また、地元コミュニティーカレッジや高校とも提携し、学生の技術スキルアップを促進している。
◎キーセンンスとその翻訳
3)キーとなる英文
As baby boomers retire, manufacturers expect to have trouble finding skilled replacements, even in an era of high unemployment.
4)キーとなる英文の和訳
ベビーブーマー世代が定年退職するにつれて、製造企業は、技術力のある代わりの従業員を見つけるのに苦労すると懸念している。
たとえ、失業率の高い間でも。
5)気になる単語・表現
replacement | 名詞 | 代わりの人;元へ戻すこと |
era | 名詞 | 時代、時期 |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
今回は、スモールビジネス欄(中小企業欄)のボストーク(経営者インタビュー)から。アメリカも、日本同様人材不足が経営課題として浮上しているようです。特に、高い技術者の確保が難しくなっており、その背景として、次のようなことが挙げられます。
【アメリカで技術者確保が難しくなっている要因】
[1]ベビーブーマー世代の大量退職
[2]失業者・新卒の技術力の不足
[3]製造業のアメリカへの回帰
[4]機械のコンピューター化による高い技術力の需要増大
1・2は、技術者の不足要因です。ベビーブーマー世代の定年退職問題は、数年前からささやかれていましたが、定年時期を遅らせることであまり表面化してきませんでした。しかし、大量退職が始まったようです。その中には技術者も含まれているので、技術者が不足することになります。
大量退職が避けられないならば、大量採用すればいいのですが、必要な技術力のある人材はそういません。この背景には、アメリカ人の数学能力の低下があるようです。
3・4は、技術者の需要増大の要因。3・4は相互に関連しており、機械のコンピューター化により生産性が上昇するにつれて、アメリカ国内での製造コストが低下し、製造業の国内回帰が進みます。国内回帰が進めば、国内での技術者需要は拡大。しかも、コンピューター化された機械を操作・メンテナンスできる高度技術者の需要が高まります。
このギャップをビジネスチャンスとして収益を拡大しているのが、アドバンスト・テクノロジー・サービス(ATS)社。もともと、1980年代にキャタピラー社から分社化された企業であり、他社工場にフルタイムで従業員を派遣し、機械の修理・メンテナンスサービスを提供しています。契約企業は、キャタピラー社やユナイテッドテクノロジー社、ホンダモーターズ社など。高度技術者に特化した人材派遣業と言えます。
ただし、そもそも高度技術者の需給はタイトなので、ATS社も人材確保に苦労することになります。そこで行っているは、
退役軍人からの採用
閉鎖工場の元従業員の採用
地元コミュニティーカレッジや高校との提携
です。
退職軍人の採用を増やすのは、仕事への姿勢が素晴らしく、高度な専門知識を持つから。ATS社は、採用において技術力よりも仕事への姿勢を重視しています。技術力は、自社でのプログラムがあるからであり、このプログラムは大学や高校との提携にも関わってきます。閉鎖工場は、必要な技術力のある有望な人材の供給源。そして、自ら人材を供給するために、工場で必要とされる技術を修得するプログラムを行っています。このプログラムを大学や高校の学生にも提供することで、技術力の高い人材を育成することができます。
インタビュー内容をまとめると、次のようになります。
【ATS社CEOインタビュー内容】
[1] アメリカ製造業をどう見るか?→復活している。海外よりも競争力があると考える企業が増え、アメリカがコスト高だと考えられているとは思わない。経営者のマインドセットが好転している。
[2] 主な課題は?→技術力の高い人材の獲得と健康保険のコスト上昇
[3] 今後5・10年どのように成長するか?→男性の退職者は増加する一方、技術力の高い若者の供給量は不足している。このため、ビジネスチャンスは依然大きい。
[4] 製造業の技術ギャップはどれほど深刻か?→徐々に表面化していると以前から指摘してきたが、これが現実化している。
[5] 採用基準は?→技術力よりも仕事への姿勢、観察力・感情や態度などを重視。
[6] 未経験者でも採用するか?→現場に近い環境で技術を出得できるプログラムがあり、問題ない。技術力が向上すれば、良い給与で安定した職を得られるので、需要は高い。
[7] 従業員の一般的な給与水準は?→1時間あたり21~51ドル
[8] 退役軍人を多く採用するのはなぜか?→仕事への姿勢がすばらしく、専門知識を有するから
[9] 数学能力はどの程度必要か?→高校で学ぶ基本的なことで十分。しかし、現実は、高校卒業社でも能力が不足している人が多く、驚いている。
[10] 機械の自動化は逆風か?→機械化することは、機械が複雑化して高度な技術が必要とされることであり、自社の戦略にマッチしている。今後、メンテンナスで自社のサービスを必要とされる場面が増えるだろう。
[11] 製造業に関して、中国から学べる点はあるか?→労働者の積極性と学習能力は、際立っている。
技術力をウリにする企業でありながら、採用基準は技術力よりも態度・姿勢を重視するということには、驚きました。それほど、自社のプログラムに自信がある証であり、また技術力は習得できても、仕事への姿勢や態度はなかなか変わらないことを物語っています。その一方で、アメリカ人の数学能力の低下を嘆いていることは、印象的です。
日本でも、高度技術者不足は、今後ますます深刻化すると思われるので、ATS社のような技術者派遣サービスが脚光を浴びるようになるかもしれません。ただしその場合は、単に高度技術者をいかに集めるかではなく、技術力を高めるノウハウ・プログラムの有無が、その企業の競争力を決めるのではないでしょうか。
また、数学能力の低下は、日本でも今後大きな問題になるかもしれません。ならば、数学の学習熱が今後高まることが期待できるので、ここにもビジネスチャンスがありそうです。
Advanced Technology Service Inc.
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《今回のヒントのまとめ》
(1)アメリカでは、ベビーブーマー世代の定年退職が増加する一方で、製造業の国内回帰・機械の高度コンピューター化が進み、技術者の需要は高まっている。一方で、必要な技術力を持つ失業者や新卒は少なく、人材の供給は不足している。
(2)このギャップをビジネスチャンスに飛躍するのは、高度技術者の人材派遣サービスを提供するATS社。
(3)供給量の少ない技術者の確保のため、専門技術を持つ退役軍人や閉鎖工場の元従業員を採用するだけでなく、現実に則した技術力向上プログラムによって、大学・高校の学生の技術力向上を目指している。
(4)技術者不足が深刻化しているのは、日本も同じため、同様の派遣サービスが注目されるかもしれない。
(5)また、ATS社CEOが指摘するように、数学能力の低下は、日本でも起こるかもしれない。数学能力の向上ニーズが高まれば、新たなビジネスチャンスが生まれることになる。
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7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
酒卸の徳岡さんが、ペットボトル入り第三のビールの販売を再開しました。
甲子園のお供だったので、取り扱いをやめた時は、かなり落ち込みました。
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ベルプレミアム
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
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読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
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◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
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公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
技術者専門の派遣業は、メイテックなど日本にはすでに存在するサービス。
問題は、技術者を派遣で賄うことで、企業はどうコストダウンができるのか、ということになるでしょうか。
また人口減少を考えると、ATS社のように、単に派遣するだけでなく、技術者の養成にも力を入れなきゃならないはず。
需要があるだけに、面白いビジネスが出来上がりそうですね。
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