【927号】売上減で株価急落の百貨店メイシーズがアウトレット業態に進出する理由とは?
◎本日のニュース
1)見出し
Macy’s Fights Downward Spiral With Bet on Off-Price Backstage Stores
ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
2)要約
全米最大の百貨店チェーン・メイシーズは、売上がアナリスト予測にすら届かずに、既存店売上をマイナスに下方修正した。今年に入って株価が40%も下落するなど、危機に直面している。
その打開策として、百貨店業態を死守してきた路線を転換し、アウトレット業態に進出する。「メイシーズ・バックステージ」という店舗名で、今後2年間で50店舗の出店を予定している。アウトレット店により、メイシーズで売れ残った過剰在庫の処理と、これまで取りこぼしていた若者の獲得を目指す。
ただし、百貨店にこだわってきたメイシーズが、アウトレット業態との両立に苦戦するのではないか、という意見もある。また、収益の悪化した既存百貨店内にアウトレット売場を開く予定なので、ブランド価値を毀損する恐れもある。
3)キーとなる英文
It could potentially address the overflow of goods on Macy’s floors while helping to bring in coveted new customers who don’t relate to old-line department stores.
4)キーとなる英文の和訳
その業態を利用すれば、潜在的にメイシーズの売場に残った過剰在庫の処理を行える。
一方で、旧来型の百貨店とは縁のない獲得困難な新規顧客の集客に寄与してくれる。
5)気になる単語・表現
gobble up | 他動詞句 | ~を合併吸収する |
clamp down on | 自動詞句 | ~を弾圧する |
rule out | 他動詞句 | ~をありえないとする、~を除外する |
saddle A with B | 他動詞句 | AにBを負わせる |
address | 他動詞 | (困難な状況・問題など)に立ち向かう、~に対処する |
overflow | 名詞 | 過剰;氾濫 |
relate to | 自動詞句 | ~に関係がある |
meander | 自動詞 | あてもなくさまよう |
equilibrium | 名詞 | 釣り合い;平衡 |
footprint | 名詞 | 足跡 |
lingo | 名詞 | 専門用語 |
envision | 他動詞 | (=envisage)~を心に描く |
flop | 自動詞 | ドスンと倒れる |
(今回ピックアップ英単語)
【address】
日本語で「アドレス」と呼ぶほどわかりやすい単語ですが、多数の意味があるので、逆に覚えにくくもある。個人的に、これまで苦戦してきた単語の1つ。
(意味)
- 宛先、番地;上書き
give you my new address 「新しい住所を教える」
write your name and address on the back of the envelope「封筒の裏に住所・氏名を書く」※address and nameではない
- 挨拶(formal speech)、演説、講演
- ~に宛先を書く、~を上書きする
address the letter 「手紙に宛名を書く」
- ~に(正式に)話をする、演説する
address the nation 「国民に演説する」(=make an address to the nation)
address the convention 「大会で演説する」
- ~に話かける
A policeman addressed the man politely.
「警官がその男に丁寧に話しかけた」
- ~に焦点をあてる、的を絞る;~に立ち向かう、対処する
The matter was addressed by the Convention.
「そのことが協定で取り上げられた」
- ~を(~と)敬称で呼ぶ(as)
address the judge as Your Honor
「裁判官に対し「閣下」を付けて呼ぶ」
- (言葉など)を言う;(文句・批判など)(個人に)提出する
address my thanks to my host
「主人に感謝の気持ちを述べる」
address a petition to the council
「審議会に請願書を提出する」
6)ビジネスのヒント
アメリカで百貨店と言えば、メイシーズ。ただし、日本のような高級感はなく、庶民的な感じでしょうか。(マンハッタンのような都会の店舗は別ですが)そのメイシーズが危機に直面しています。
【メイシーズの危機】
- 既存店売上が大きく減少見込み(過去5年間はプラス)
- 株価が今年40%も下落(2012~2013年のレベル)
危機の主因は、1の既存店の売上不振。前回の業績発表時には、昨対比プラスマイナスゼロの予測だったのを、-1.8%~-2.2%に下方修正しました。直近四半期の売上も、アナリスト予測に届かず-5.2%。WSJ記事には、過去5年間の既存店売上高の増減率が某グラフで掲載されているのですが、2012年から増加率が減少しており、ついに今年マイナスに転落することがわかります。
しかも、そのマイナスの率が相当高いことが、2の株価の大幅下落を引き起こしました。実は、ダウ平均同様に、メイシーズの株価も今年史上最高値を更新したのです。しかし、その後40%の下落。投資家の失望ぐらいが見て取れます。
そのメイシーズが、状況打開策として採用したのが、アウトレット業態の出店。百貨店にこだわった従来の戦略からの大きな転換です。
【従来の戦略】
- 主に他百貨店チェーンのM&Aにより、百貨店業態に拘泥し、規模の経済の恩恵を狙う
- 新業態はテストする程度
- 値引き販売を回避
要は、百貨店にこだわり、百貨店の拡大を進めてきたのです。新業態をテストする程度で、メインにする予定はなし。その目的が3の値引き販売の回避。百貨店というよりも、正規価格での販売に拘ってきたと言って方がいいかもしれません。
他の百貨店を買収することで、広告・仕入れで規模の経済を働かせてきたのです。販売面では、5つのコアブランド(ラフル・ローレン、カルバン・クライン、トミーヒルフィガー、マイケル・コース、PBのINC)に力を入れてきました。
それが、なぜアウトレット業態に舵を切ったのか。その理由は、以下の通り。
【定価販売に拘ってきたメイシーズがアウトレット業態に進出する理由】
- 百貨店のパイは縮小する一方で、ディスカウント市場は拡大しているから
- 売上減少でメイシーズに過剰在庫が発生し、その処分を迫られたから
- 百貨店を利用しないミレニアル世代など若者を獲得したいから
1について、小売市場での百貨店のシェアは、2006年の15%から、2013年には9%に縮小。一方で、ディスカウント市場は、2009年から2014年で44%も拡大しています。ディスカウント市場のシェアが記事には明記していなかったので、比較しづらいかもしれないですが、増減が全く対照的である点はわかるかと思います。ちなみに、メイシーズは、百貨店のパイが縮小する中、M&Aにより同期間でシェアを33%から44%まで拡大させています。
百貨店の衰退とディスカウント市場の盛況の要因は、消費者の節約志向の高まりにあります。雇用環境が好転し、景気拡大が続いていても、その恩恵を受けているのは、自動車・電化製品(デジタル端末含む)・リフォームグッズであり、アパレルや身の回り品など百貨店のメイン商材は節約志向が対象となっているのが、アメリカ経済の実態なのです。
その中で、節約志向から利用を止めたチェーン第一位が、なんとメイシーズ。この結果こそ、メイシーズの既存店売上の急減の一番の要因でしょう。つまり、メイシーズの顧客がディスカントストアに流出しているのです。だからこそ、メイシーズにとっては、流出した顧客を奪還するために、強烈値引きで販売するアウトレット業態は必要なのです。
2について、売れなければ増えるのが、売れ残り在庫。メイシーズは、これが過剰に発生し、その処分先として、アウトレット業態が開発されたのは言うまでもありません。
3について、さらにアウトレットで狙いをつけたのが、ミレニアル世代。普段百貨店に足を運ばない消費者層であるものの、今後拡大する大事な見込み客候補でもあります。ただし、どの小売業態もミレニアル世代獲得を目指しており、獲得が難しいのも事実。だからこそ、値下げ率の高いアウトレット業態という最強兵器の導入に踏み切ったのでしょう。ちなみに、百貨店のメイシーズでは扱わないような若者向けブランドを、アウトレット業態では販売するようです。
そのメイシーズのアウトレット業態は、メイシーズ・バックステージというネーミングです。その概要をまとめると、次のようになります。
【メイシーズ・バックステージの概要】
- 目的は、在庫処分と若者獲得
- 競合は、TJマックスやマーシャルズなどアパレルを強烈値引きで販売するディスカウントストア
- 今後2年で50店舗まで出店
- そのうち、10店舗は収益力の低いメイシーズ既存店内に出店
1は先述の通り。2は、競合は百貨店ではなく、TJマックス・マーシャルズを傘下に収めるTJX社などディスカウントストアになります。3にあるように、本腰を入れて出店するようです。期待の度合いがわかります。
4には注目。通常、ブランドのアウトレット業態は、そのブランド価値を守るために、レギュラー店から離れた場所に出店するもの。メイシーズ・バックステージの一部は、その業界の常識に背き、既存のメイシーズ店内に出店します。その理由は、バックステージの出店により、既存店の収益力を高めるため。アウトレットを誘致するしか、収益力が高まらない店舗のテコ入れです。アウトレット店舗ができるというよりも、巨大な処分売場を作るという方が、適切な表現かもしれません。ただし、このパターンで出店するのは、50店舗の内の10店舗だけ。
このように、小売の常識をかなぐり捨ててまで出店を進めるメイシーズ・バックステージですが、課題・懸念もあります。
【メイシーズ・バックステージの課題・懸念】
- アウトレット業態進出が遅すぎて、新鮮味に掛ける
- 百貨店とアウトレットとの両立は難しい
- 百貨店内への進出により、メイシーズブランドが毀損する懸念
1について、百貨店ブランドのアウトレット業態は、特に珍しいわけではありません。ノードストロームにはノードストローム・ラック、ニーマン・マーカスにはラストコール、サックスにはサックス・オフがあります。今さらアウトレット業態を出店しても新鮮味に欠け、期待した程の集客が見込めないかもしれません。
アウトレット業態進出に遅れたのは、意思決定の遅さに起因します。なにぶん、メイシーズは会議で決めることが多く、決定するのに時間を要します。例えば、ウェブサイトにフェイスブックのいいねボタンを設置するのだけでも、3年掛かりました。そして、アウトレット業態が最終的に決定するのに、6年も。
この意思決定の遅さは、2の懸念につながります。定価販売の百貨店とは違い、アウトレット業態では、値段を下げてでも売りさばく必要があるため、値決めには臨機応変さが必要とされます。会議で決める時間の猶予はないのです。ちなみに、TJマックス・マーシャルズを傘下に収めるTJX社がディスカウト業態で成功したのは、バイヤーにスポット買いの権限が移譲されているから。合議で決めるメイシーズにとって、アウトレット・ディスカウトに必要とされる臨機応変な価格設定はなかなか難しいことのようです。
3について、定価販売の売場の横に強烈な値引きをする売場があれば、メイシーズのブランド価値が消費者の中で落ちる恐れがあります。つまり、「待てば、いずれ安くなるブランド」という認知に変わるかもしれないのです。
ちなみに、この消費者認知を、専門用語で「オープニング・プライス・マインドセット」と言います。これは、高品質の商品の価格が、通常品と同じ価格になるまでセールを待つことが常態化するということです。バックステージのアウトレット価格を見たメイシーズの顧客は、メイシーズの商品がバックステージ売場に移るまで待とうと考えるかもしれません。これでは、単に客単価が下がることになり、売上回復に全くつながりません。
過剰な在庫処分という目的もありますが、メイシーズがメイシーズ・バックステージを始める一番の目的は、ミレニアル世代などの若者獲得による客数増でしょう。これまでは、百貨店の規模拡大により客数を増やしてきましたが、百貨店の市場規模自体が縮小しているので、規模拡大だけでは客数の増加はおろか、維持さえ難しくなってきたのでしょう。
さらに、これから消費拡大が期待できるミレニアル世代は、従来型の百貨店を利用しません。この層を獲得するには、従来型の百貨店以外の業態を開発する必要があったのです。その一番簡単な方法として、強烈に値下げするアウトレット業態が採用されたのです。アウトレットで獲得したミレニアル世代を、いずれはメイシーズ本体に集客して、定価の商品も買ってもらって、客単価も引き上げたい。メイシーズのこの狙いに対し、ミレニアル世代は節約志向が高いだけに、まんまとはまることもないかと思います。
ちなみに、日本の百貨店は、若者獲得のために、SCへの進出を進めています。百貨店ブランドのセレクトショップを、集客力の高いSCにテナント出店することで、百貨店にはほとんど来店しない若者を獲得しようという狙いです。今のところ、アウトレット進出の様子は全くありません。
同じ若者獲得が狙いでも、デフレ色の残る日本の百貨店はブランド価値を訴求する一方、景気拡大が続くアメリカでは、強烈な値下げをするアウトレットを開発しています。アンビバレントに見えるのは、日本とアメリカで百貨店のブランド価値に大きな違いがあるからでしょうか。
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《今回のヒントのまとめ》
- メイシーズが、アウトレット業態の出店に力を入れるのは、百貨店市場が縮小する一方で、ディスカウント市場は拡大しているからである。
- 従来は百貨店の規模拡大により客数増を目指したが、パイの縮小により、百貨店だけでは客数増・維持が難しくなったのだろう。客数減少の結果が、売上の急減である。
- また、既存店売上急減に直面するメイシーズに過剰在庫が発生し、その処分先として活用するのも、アウトレット進出の要因である。さらに、百貨店を普段利用しないミレニアル世代獲得も、アウトレット進出の目的である。
- ただし、メイシーズは意思決定が遅い組織だけに、臨機応変な価格設定が必要なアウトレット業態の運営は難しいのではないかという懸念がある。
- また、進出自体が遅く、新鮮味に掛けるため、集客自体が想定通りに進まない恐れもある。さらに、メイシーズ既存店内に一部出店するために、メイシーズのブランド価値が毀損するリスクも生じる。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
ビール系飲料は、メインブランドの派生商品が最近随分増えています。
恐らく、知名度の高いブランドを使うことにより、成功確率が高まるとともに、宣伝広告費などの販売コストの削減を狙っているのでしょう。
その中で、最近飲んだのが、「麦とホップ The gold 絹のコク。」
これが、実にコクがあり美味しい。
苦味が好きな人には物足りないかもしれませんが、それ以外はビールと間違うほど。
試しに一本買って飲んだのですが、次は24本入を買おうかと思っています。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、5年経ちました。
この5年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
個人的に、メイシーズといえば、年中セールをしているというイメージがあります。
だから、意外にアウトレットには向いているかもしれませんよ。
ちなみに、小柄な私にとって、アウトレットではなかかS(またはXS)がないために、あまり用はありません。
日本のアウトレットモールで言えば、買い物するのはせいぜいギャップぐらいですね。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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