【928号】米セブン-イレブンが設置を進める宅配ロッカー、その可能性とリスクとは?
◎本日のニュース
1)見出し
7-Eleven Expands Locker Space, Hoping to Cash In on E-Commerce Wave
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2)要約
セブン-イレブン社は、北米の店舗でネット通販受取り用のロッカーの設置を進めている。その目的は、ネット通販市場の拡大を、自社の収益拡大に結びつけるためである。
セブンの宅配ロッカーは、ネット通販企業にとっても利点がある。それは、ネット通販の普及により逼迫した物流ネットワークの緩和と、高騰する配送コストの圧縮である。特に、クリスマス時期は物流が集中する傾向があり、配送の遅延によりクレームになる恐れがある。
ただし、店内にロッカーを設置することにより、セブン側は売場が減るというデメリットがある。ただでさえ小さな店舗にロッカーを設置すれば、年間店舗あたり数千ドルの売上を失うことになる。
3)キーとなる英文
7-Eleven Inc. is making space for more lockers at a number of its North American stores, in a bet that growing e-commerce volumes will help drive Slurpee sales.
4)キーとなる英文の和訳
セブンイレブン社は、北米の多くの店舗でロッカーの設置を増やしている。
これにより、ネット通販の物流増がスラーピーの売上拡大に寄与することを狙う。
5)気になる単語・表現
slurpee | 名詞 | スラーピー(フローズンドリンク) |
salve | 名詞 | 心の傷を癒やすもの;軟膏 |
relevant | 形容詞 | 関連がある;実際的な価値がある |
overtax | 他動詞 | ~に過度な負担を掛ける |
come in handy for | 自動詞句 | ~に役に立つ |
obvious | 形容詞 | 明らかな、わかりきった |
up in the air | 副詞 | 未決定で、漠然として |
(今回ピックアップ英単語)
【obvious】
よく似た単語に、obscureがあるが、意味はほぼ逆。
(obscure)(重要性がないために)世に知られていない、無名の;不明瞭な;人目に付かない
(obvious)明らかな、明白な;見てすぐわかる;(明白なので)言う必要のない;(願望が)あからさまな、露骨な
6)ビジネスのヒント
北米のコンビニ・セブン-イレブンで設置が進むのは、宅配ロッカー。日本でもセブンの通販サイトで購入した商品をセブン-イレブンの店頭で受け取れるオムニチャネルを始めましたが、アメリカではレジではなくロッカーで受け取るようです。
セブンがネット通販受取り用のロッカーを設置したのは、2011年のアマゾン・ドット・コム用から。昨年は、運送会社のフェデックス社・UPS社のロッカーを設置して、二社の便を使うネット通販の荷物も受取れるようになりました。そして、今年10月には、トロントの6店舗で、ウォルマートのロッカーを導入。通販サイト一社独占ではなく、多数のパートナーのロッカーを設置したのが、その特徴です。
セブンが宅配ロッカーを設置する目的をまとめると、次のようになります。
【米セブン-イレブンがネット通販受取り用のロッカーを店舗に設置する目的】
- ネット通販市場の拡大を、収益拡大に結びつけるため
- 日用品購入まで通販サイトで行われることによる顧客の流出を回避するため
1について、ネット通販市場が拡大しても、実店舗のセブン-イレブンにはあまり恩恵がありません。そこで、受取り用ロッカーを設置することで、市場拡大の恩恵を受けようとしているのです。具体的には、ロッカー設置・利用による手数料収入と、ロッカー利用による客数の増加です。
2について、比較的単価が低く日常必需品を扱うコンビニは、家電量販店やディスカウントストアほどネット通販が脅威ではありません。しかし、日用品の購入までネットで行われるようになると、話が異なります。そうなれば、セブンの顧客がネット通販に流れることになります。つまり、客数が減少し、売上に悪影響を受けかねません。それを避けるために、店内に宅配ロッカーを設置し、客数増を狙うのです。
もちろん、利用するネット通販ユーザー・ネット通販企業・運送会社にとっても、セブンの宅配ロッカーはメリットがあります。
【ネット通販ユーザーのメリット】
- 旅行時など外出時に受取ることができること
- 本人やその住所など個人情報の公開を最小限に留めることができること
【ネット通販企業のメリット】
- 配送遅延など物流ネットワークの逼迫や運賃の高騰など、物流面の課題解消につながること
- ネット通販の拡大でも進む利益の圧迫を回避できること
【運送会社のメリット】
- 再配送などコスト拡大要因を最小化できること
注目点は、ネット通販企業のメリットです。ネット通販企業が直面するのは、物流増による配送の混乱・遅延と、運賃の高騰です。特に、これから始まる年末商戦・クリスマスプレゼントの配送には、神経質にならざるを得ません。昨年は、UPSでクリスマス当日の配送が遅れ、マスコミで大きく取り上げられました。配送トラブルが起きたサイトで再度購入する確率はかなり低くなるので、ネット通販企業にとって、物流ネットワークの逼迫は大きな課題なのです。
さらに、ネット通販市場が拡大すれば、プレーヤー増加により競争が激化します。それに加えて、運賃が高騰しています。ネット通販企業は、売上は増えども利益は減るという「豊作貧乏」の状況に直面しているのです。だから、宅配よりも確実で運賃が安いロッカー受取りは、ネット通販企業にとって大きなメリットなのです。
また、宅配ロッカーサービスには、セブン-イレブンの強みが発揮されます。
【宅配ロッカーサービスを有利に運ぶセブン-イレブンの強み】
- 24時間営業・多店舗展開により、ロッカー設置候補として優位に立てる
要は、受取るネット通販ユーザーにとって、セブン-イレブンは都合のいい店舗なのです。だからこそ、アマゾンやウォルマート、フェデックス・UPSなど互いに競合する企業でも、セブンと提携せざるを得ないのでしょう。また、優位に立てることで、ロッカー設置・利用時に課す手数料決定において、セブンは強い交渉力を持つことができます。もちろん、これはセブンの収益力にプラスに働きます。
ただし、宅配ロッカー設置によるデメリット・リスクもあります。
【セブンの宅配ロッカー設置のデメリット・リスク】
- ロッカー設置により売場が犠牲になり、売上減少が不可避なこと
- 手数料収入・客数の増加がどの程度見込めるのか不明なこと
- 直接・間接的に競合する小売企業が、セブンへのロッカー設置を進めるかわからないこと
1について、12個の標準的なロッカーを設置することで、1つの大きな棚のスペースが消滅します。それは、年間一店舗あたり数千ドルの売上減少につながります。さらに、小売業全体で店舗面積が縮小傾向にあり、一インチ平方あたりの利益最大を目指すなど、緻密な売場設計を各社行っています。このような競争環境の中、ただでさえ店舗面積の小さなコンビニでロッカーを設置するということは、収益源という大きなリスクを背負い込むことになります。
2について、さらに宅配ロッカーでの受取りを、ネット通販ユーザーがどの程度利用してくれるかはわかりません。セブンは200店舗にロッカーを設置していますが、まだテスト段階なのです。だから、ロッカー設置によって減った売上を補うほどの、手数料収入・客数の増加が見込めるかは不明なのです。
3について、アマゾン・ウォルマートなどは、直接的にセブンと競合しているわけではありません。しかし、販売する商品では、競合しています。自社と競合する企業の店舗に、設置の手数料を払ってまでロッカーを設置すれば、みすみす自社の顧客を競合企業に渡しているも同然。集客が難しい中”自殺行為”とも言えることを競合企業が進んで行うかは、大きな疑問です。
言ってみれば、米セブン-イレブンにとっての宅配ロッカーは、日本のセブン-イレブンのATMのようなものかもしれません。設置することで、提携企業から手数料収入を得られるだけではなく、集客にもプラスに働くからです。しかし、提携する企業が、ATMは競合しない銀行なのに対し、ロッカーは小売企業です。ATMほど利便性の高いロッカーはあまり期待できないかもしれません。
荷物受渡し以外の収益モデル(例えばロッカー利用者にクーポン配布など)を設計することも可能ですが、ネット通販企業はこれを嫌がるでしょう。そう考えれば、自然に提携できるのは、競合しない運送会社ということになります。セブンの宅配ロッカーは、運送会社の配送オプションとして普及する可能性が高いでしょう。
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《今回のヒントのまとめ》
- 米セブン-イレブンが、ネット通販受取り用のロッカーを店内に設置するのは、ネット通販の拡大を収益拡大に結びつけるためである。また、ネット通販の対象が日用品まで拡大しても、顧客を維持することが可能となる。
- ネット通販企業にとっても、セブンの宅配ロッカーはメリットがある。それは、物流ネットワークの逼迫や配送コストの高騰を回避できるからである。競争激化・運送コスト高騰による収益性の低下を、テコ入れできる。
- 特にセブンの場合、24時間営業・多店舗展開という強みが、ロッカー設置を優位に運ぶことができる。その優位性ゆえ、手数料決定時などに、強い交渉力を持つことができる。
- ただし、ロッカー設置にはデメリットもある。それは、売場面積を犠牲にせざるを得なく、売上減が不可避な点である。特に、店舗面積が縮小傾向の中、緻密な売場設計をする小売業界において、売場面積の縮小は致命傷になりかねない。
- また、まだテスト段階のため、手数料収入・客数増がどの程度なのか未定である。売場面積縮小による売上減を補えなければ、赤字になる。
- さらに、直接・間接的に競合するネット通販企業が、自社の顧客をみすみす渡しかねないロッカー設置に同意するハードルも高い。
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7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
ビール系飲料は、メインブランドの派生商品が最近随分増えています。
恐らく、知名度の高いブランドを使うことにより、成功確率が高まるとともに、宣伝広告費などの販売コストの削減を狙っているのでしょう。
その中で、最近飲んだのが、「麦とホップ The gold 絹のコク。」
これが、実にコクがあり美味しい。
苦味が好きな人には物足りないかもしれませんが、それ以外はビールと間違うほど。
試しに一本買って飲んだのですが、次は24本入を買おうかと思っています。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、5年経ちました。
この5年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
ネット通販市場が拡大するほど、皮肉にも実店舗の強みに脚光が当たっているように思えます。
オムニチャネルは、実店舗小売にとって当然の権利なのかもしれません。
逆に、ネット専業が今後SCなど集客力の高い商業施設に出店してくることも考えられます。
多くのプレイヤーがネット・リアルで競争を激しく行えば、自然に収益は逓減していくもの。
単にモノを売るだけでは儲からない、そんな時代が来るように思えてなりません。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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今回は私が恩返しします!
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