【949号】米大手スーパーのクローガーが導入したアルコール売場改革プランの利点と欠点
◎本日のニュース
1)見出し
Kroger Plans to Upend How it Organizes Booze in Stores
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2)要約
クローガー社は、昨年後半に導入したアルコール売場の新作成プランについて、アルコール業界で物議を醸している。というのも、新プランでは、棚割作成の主導権が大手メーカーから配送業者に転換されるからである。
従来は、大手アルコールメーカーが「カテゴリーキャプテン」として、棚割作成に大きな影響力を持っていた。しかし、新プランでは、非上場配送業者であるサザン・ワイン&スピリッツが棚割を決め、しかも、採用の決まったメーカーは逆に手数料を支払うことになる。
このような第三者による売場作成では、顧客ニーズに即座に対応できるというメリットがある。しかし一方で、禁酒法時代の名残がある連邦・州の法規に違反する恐れもある。
3)キーとなる英文
Kroger Co. has started a booze-fueled brawl with the alcohol industry with a plan to change how the country’s largest supermarket chain organizes beer, wine, and liquor on its store shelves.
4)キーとなる英文の和訳
クローガー社は、アルコール業界と酔っぱらいのような騒動を始めてしまった。というのも、全米最大のスーパーマーケットチェーンにおける、ビール・ワイン・リキュールの棚を決める方法を変える計画があるからである。
5)気になる単語・表現
booze | 名詞 | 酒;酒盛り |
fuel | 他動詞 | ~をたきつける;~に燃料を補給する |
brawl | 名詞 | 騒々しい喧嘩 |
privately held | 形容詞句 | 非公開の |
emulate | 他動詞 | ~を見習う |
brouhaha | 名詞 | 騒動;がやがや |
rally around | 自動詞句 | ~に再び集まる;~に馳せ参じる |
comply with | 自動詞句 | ~に従う |
perimeter | 名詞 | 周囲 |
mandatory | 形容詞 | 強制的な |
(今回ピックアップ英単語)
【privately held company】
会社の形態により、英訳はもちろん異なります。
「上場企業」 listed company, public limited company(英), publicly listed company, quoted company
「非上場企業」 privately held company, Private company, unlisted company, private limited company,
6)ビジネスのヒント
クローガー社がアルコール売場に導入した新棚割プランが、アルコール業界で物議を醸しているようです。棚割とは、チェーンストア用語とも言えるもので、売場の棚にどの商品をどれだけ置くかを決めることにより、売場を作成する手法。セルフサービスのチェーンストアでは、棚割を元に売場を作成しているものと思われます。
新棚割プランと従来プランを比較すると次のようになります。
【クローガーが導入した新棚割プランと従来プラン比較】
(新プラン)
- (作成主体)独立系配送業者のサザン・ワイン&スピリッツ
- (コスト)棚割に採用されたメーカーは、サザンに手数料を支払う
(従来プラン)
- (作成主体)大手メーカーのカテゴリーキャプテン
- (コスト)負担なし?(新規採用時のみ導入コスト負担あり)
新プランの一番の違いは、棚割作成主体が大手メーカーから独立系配送業者に転換する点。「独立系」としたのは、メーカーとは関係ないという意味から。つまり、メーカー・小売から独立した、第三者が作成するという点で革新的と言えるのです。これにより、カテゴリーキャプテンだった大手メーカーは、棚割への影響力を失うことになります。だから、この新棚割プランに異論を唱えているのです。
もう1つの違いは、コスト負担について。新プランでは、棚割を作成するサザンに、採用メーカーは手数料を支払うことになります。従来は、このような棚割作成コストの負担はなかったようです。ただし、バターや歯磨き粉など一部のカテゴリーでは、新規に販売が決まった時のみ導入コストの負担があるようです。
クローガー社が、棚割作成手法を変えるのは、新プランにメリットがあるからに他なりません。
【新棚割プランの利点】
- 顧客ニーズに迅速に対応できること
- ニーズに応じて、バイアスの掛らないアドバイスを受けられること
1について、今は新しいクラフトビールが急に人気が出るなど、アルコール売場の売れ筋変化が素早いようです。さらに、需要を喚起させて売上を伸ばすには、単に並べるだけではなく、季節に応じた売場を作る必要があるようです。従来は、製造販売も兼ねる大手メーカー主導であったため、年二回のみで、しかも、全店舗で実施されているわけではなかったようです。
2について、顧客ニーズに忠実に対応するには、バイアスの掛らない提案が必要になります。この点に関して、自社ブランドの売上増を最優先するメーカーには期待できません。また、実際にメーカーから独立した業者によるデータ分析・棚割提案で、カテゴリーの収益が拡大した事例があるようです。
このような利点は、導入する小売店が受けるもの。一方デメリットは、主に異論を唱えるメーカーが受けることになります。
【新棚割プランの欠点】
- コストアップ
- 法律違反の恐れ
- クローガーが成功すれば、他チェーンに波及する恐れがあること
1について、先述したように、新プランでメーカーがサザンに支払う手数料は、従来発生しなかったコスト。仮に売場に変化が無くても、メーカーには新たなコスト負担が課されます。特に、人気沸騰中のクラフトビールでは、中小企業やスタートアップのメーカーが多いため、利益率の低下や売場喪失につながりかねないとの懸念が強いようです。
ただし、サザンの説明によると、手数料は棚割作成コストを賄うためのものなので、任意とのこと。支払わなくても、売場決定に影響しないようです。しかし、他カテゴリーでは手数料負担が必須となる事例もあるので、アルコールメーカーが警戒するのも不思議ではありません。
2について、禁酒法時代の名残があるアルコール販売には、連邦政府・州の法規において規制があるようです。例えば、オハイオ州では、メーカーが小売に金銭を提供することが禁止されています。
これに関して、サザンの言い分は、手数料はサザンが受取るものであり、クローガーには手数料収入からの利益は発生しないようです。また、この手数料は導入費とは違うので、法に触れることはないとのことです。違法かどうかは、現在調査中のようです。
3について、サザンには他チェーンからも棚割作成サービスに関する照会が来ているようで、クローガー社がこの新プランで成功すれば、他の小売チェーンも追随することは避けられないようです。メーカーの手数料負担は、更に拡大しかねません。
クローガー社が新棚割プランを導入する売場は、特売ではなくプロパー(定番)の売場。だから、逆に言えば、棚割作成手法を変えなくてはならないほど、定番売場の収益が低下しているかもしれません。この背景には、次のような消費者ニーズ・消費行動の変化があるのでしょう。
【スーパーの定番売場の収益が低下した要因】
- 消費者ニーズの多様化により、大手メーカー品の売上が低下しているから
- 定番売場では、商品選択において価格よりも品質など非価格の価値が優先されるから
1について、従来は、テレビCMを打つような大手メーカーの商品が好まれていましたが、今ではニーズの多様化により、各ニーズにマッチした商品が好まれる傾向にあります。食品で言えば、ナチュラル・ヘルシー・オーガニックがキーワードと言えるでしょう。中小企業の商品でも、ニーズに合致すれば、売れるのです。ならば、大手メーカー主導で決めた売場では、顧客ニーズに対応できなくなるのは明らかです。
2について、大手メーカー主導で売場を作れば、仕入れ原価の削減により低価格での販売が可能になります。しかし、定番売場では、価格よりも品質などの価値が優先されるため、低価格で販売しても、従来ほどの販売数量は望めません。ならば、大手メーカー主導で売場を作る意味はありません。
さらに、大手メーカー主導で棚割を作れば、競合店舗と似た売場になりかねません。これでは売場の同質化を招き、つまらない売場になってしまいます。集客に悪影響を及ぼしかねません。
アルコールは規制が厳しいので、この新たな棚割プランが完全導入されるかはわかりません。しかし、この売場作成手法の変化の裏に消費者ニーズ・消費行動の変化があるならば、規制に合わせる形に調整した上で、売場作りの手法を変えざるを得ないでしょう。ディスカウントは別にして、通常の小売チェーンでは価格競争から価値競争に転換しつつあると言えるでしょう。
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《今回のヒントのまとめ》
- クローガーが導入を進めるアルコール売場の新棚割プランでは、作成主体は配送業者のサザン・ワイン&スピリッツであり、この作成サービスに対するコストを負担するのはアルコールメーカーである。
- 従来は、大手アルコールメーカーがカテゴリーキャプテンとして影響力を持っており、棚割作成にコスト負担が無かった。だから、新プランに対して異論を発している。
- 新プランの利点は、顧客ニーズに迅速に対応できる点とバイアスの掛らないアドバイスを受けられる点である。この背景には、クラフトビールなど顧客ニーズの著しい変化がある。
- ただし、欠点もある。一番はメーカーにとってのコストアップであり、クローガーが成功して他チェーンが追随すれば、コスト負担はさらに拡大する。また、規制の厳しいアルコール販売だけに、違法の恐れがある。
- クローガーが定番売場で新棚割プランを導入する背景には、消費者ニーズに多様化により、消費者の大手メーカー離れがあるだろう。また、選択基準として、価格よりも価値を優先する消費行動も挙げられる。
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7)おすすめ商品・サービス
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編集後記
日銀のマイナス金利導入によって、預金金利が今後引き下げられそうです。
一番影響を受けるのが、年金生活者。
さらに、ゆうちょ銀行などの銀行株の急落により、NISAで銀行株に投資した人の多くが含み損に転落しました。
この結果、マイナス金利批判が強まれば、次の参院選の結果も少々変わる可能性があります。
前回の追加緩和と違い、株価上昇もさほど大きくなかっただけに、マイナス金利導入が思わぬ政変に繋がるかもしれませんね。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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今回は私が恩返しします!
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2016/02/08 | ウォールストリート・ジャーナル, 小売業界 商品戦略, 小売店, 販売戦略
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