【970号】ランジェリーブランドのヴィクトリアズ・シークレットが教えてくれる、ダイレクトメールの長所と短所
◎本日のニュース
1)見出し
Victoria’s Secret Turns Its Back on the Catalog
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2)要約
婦人用下着ブランドのヴィクトリアズ・シークレットは、戦略変更を発表した。変更内容は、カタログ発送と割引を縮小して、ロイヤルティプログラムとブランドの心的結びつきに集中するというものである。
ヴィクトリアズ・シークレットにとって、創業時から続いていたカタログ発送は販促の中心であった。それを縮小するということは、長期的な成長とブランド力の強化を優先するためである。実際、2013年から広告費用とカタログ関連費用を削減している。
しかし、小売業界で見ると、逆にダイレクトメールに力を入れる企業が増えている。通販サイトで購入するにしても、多くの消費者はカタログを見てからネットに移るからである。よって、ヴィクトリアズ・シークレットは、カタログを縮小することで、今後売上を落とす恐れがある。
3)キーとなる英文
L Brands Inc., the parent company of Victoria’s Secret, this week unveiled strategic changes that include “evolving how the business connects with customers through more focus on loyalty programs and brand-building engagement rather than traditional catalogues and offers.”
4)キーとなる英文の和訳
Lブランズ社は、ヴィクトリアズ・シークレットの親会社であるが、今週、戦略の転換を発表した。
顧客との関わり方では、従来のカタログや割引よりも、ロイヤルティプログラムやブランドの心的結びつきを重視する。
5)気になる単語・表現
turn one’s back on | 他動詞句 | ~に背を向ける、~を無視する;~を見捨てる |
scantily | 副詞 | 不十分に |
clad | 形容詞 | 着た |
connect with | 自動詞句 | ~と連絡(接続)する |
engagement | 名詞 | 関与;婚約;約束;用事;雇用 |
offer | 名詞 | 値引き;特別サービス |
prococative | 形容詞 | 刺激する |
lingerie | 名詞 | 婦人用下着、ランジェリー |
double down on | 自動詞句 | リスクを覚悟で~を増やす |
(今回ピックアップ英単語)
engagement
(英英)
- an agreement to marry somebody
- an arrangement to do something at a particular time, especially something official or something connected with your job
- fighting between two armies, etc
- being involved with somebody/something in an attempt to understand them
- an arrangement to employ somebody
(コメント)
マーケティング関連の記事でよく使われるengagement.
この場合4の意味に近く、「ブランドと顧客との心的結びつき」を示す。
消費者向けブランドは、顧客とのengagementを強めることに力を注ぐ。
6)ビジネスのヒント
ヴィクトリアズ・シークレットと言えば、セクシーな表紙のカタログで有名なランジェリー。そのカタログは、ヴィクトリアズ・シークレットの販促の中心的存在。しかし、ヴィクトリアズ・シークレットは、販売・顧客戦略を転換して、カタログ発送や割引を縮小し、ブランドロイヤルティの構築と心的結びつきの強化に力を注ぐようです。
まず、ヴィクトリアズ・シークレットのカタログに関するデータから。
【ヴィクトリアズ・シークレットが力を注いできたカタログ】
- セクシーな表紙など写真中心のカタログで、見栄えは評判。
- 40年前から配布開始
- 最大で年間3億5000万部を年22回発送
親会社であるLブランズ社がヴィクトリアズ・シークレットを買収したのは、1982年。この時にはすでにカタログ発送を行っていたようです。(実店舗も数店あり)1のように、写真中心のカタログは、それだけコストを掛けているからに他なりません。その評価の高いカタログを大量に複数回発送することにより、売上を伸ばしてきたのです。
そのカタログ発送と値引き販促を縮小して次に力を入れるのが、ブランド強化。顧客との心的関わりを深めることにより、ブランドへの忠誠心を高めようという手法です。このような方針転換を行うのは、
より長期的な成長を目指すため
に他なりません。カタログを通じた値引き販売により短期的に売上をテコ入れするのとは、対照的です。既に、広告費とカタログ関連費用は2013年から年々縮小されています。それでも、業績が好調だからこそ、戦略転換を決断したのでしょう。
【ヴィクトリアズ・シークレットの業績】
- 売上:76億7000万ドル(前年72億1000万ドルから3%増)
- 既存店売上:5%増
※2015年実績
多くの小売業の既存店売上が前年並か割れていることを考えると、5%増はかなり良好な業績であることがわかります。広告・カタログ費用を削っても、既存店売上は順調に伸びているからこそ、方針転換を行うのです。ちなみに、ヴィクトリアズ・シークレットは、カタログ販売を行う一方で、100店舗以上の直営店を擁しています。
ネット通販がこれほど普及したのだから、紙のカタログを使った販促を縮小するのは当然とと言えば当然。しかし、小売業界では、ネット時代だからこそ、紙のカタログを再評価する企業が増加しています。
【カタログを再評価する小売企業】
- リストレーション・ハードウェアHD社(高級家具)
電話帳ほど分厚いカタログ「ソースブック」を配布
- ボノボス(ネット専業の男性アパレル)
カタログ発送を開始
- JCペニー(アパレル)
2010年に廃止したカタログを2015年に復活
2のネット通販専業小売企業までが、カタログ発送を開始するぐらい、小売企業はカタログを再評価しているのです。その理由は、多くの消費者がカタログを見て、ネットつうはんや実店舗で買い物をするからに他なりません。次のようなデータもあります。
【カタログと購入の関係】
- 53%の消費者は、年に1回以上カタログ通販で購入する
- 17%の消費者は、月に1回以上カタログ通販で購入する
要は、これだけネットが身近なインフラになっても、通販カタログから注文する人は多いということです。ネット専業の小売企業は、カタログ制作・配布することで、ネットではリーチできなかった顧客層の開拓を目指しているのです。このような、カタログ再評価の動きもあって、カタログの発送部数は2013年に6年ぶりに増加しました。
カタログを縮小するヴィクトリアズ・シークレットと、カタログに改めて力を注ぐ小売業界。この両社の戦略の違いから、カタログの長所と短所をまとめてみます。
【通販カタログの長所と短所】
(長所)
- 長期的な顧客との関係を築きやすいこと
- カタログがネット・実店舗の売上増に寄与すること
- 実店舗を歩いているような体験ができること
(短所)
- ネット通販と比べて、情報が固定され古いこと
- 割引に頼った販促が多くなりがちなこと
まずは長所から。1について、カタログは一度見てもらえれば、なかなか捨てられずに丁寧に扱われる確率が高まるようです。この結果、時間のある時にカタログを手に取られやすくなり、長期的に関係を構築しやすくなります。
2について、カタログを見ることは、単に通販カタログからの注文が増えるだけではありません。ブランドとの接触が増えることにより、ネット通販や実店舗での売上増にも寄与します。つまり、カタログはブランドロイヤルティの構築に貢献するのです。
3について、実際に紙をめくることが、実店舗の売場を回遊することに近いので、擬似ウィンドウショッピングが可能になります。これは、検索・クリック中心のネットでは体験できなことです。
一方、短所では、1のように紙の欠点がまず挙げられます。ネットは随時情報更新が可能なのに対し、紙は印刷後の変更は原則不可能です。そのため、情報が古くなり、環境変化に対して迅速な対応ができないという短所があります。さらに、2のように、カタログは紙面に限りがあるために、価格訴求が中心になります。1の情報が固定化されることで、失敗の可能性をできるだけ下げるために、価格訴求をせざるを得ないとも考えられます。
このように、長所と短所を考えた場合、ブランドロイヤルティを高めて長期的成長を目指すヴィクトリアズ・シークレットにとって、長期的な顧客関係を構築できるカタログを縮小する必要はないように思えます。
一方で、記事を読むと、自社内のブランドラインを再編して、業務を簡素化することにより、長期的成長を目指すとも書かれています。実際、米国内の主要オフィスの200の職種を廃止し、扱いカテゴリーの削減も実施するようです。つまりは、顧客が重複するブランド・不採算カテゴリーを廃止することにより、ターゲット顧客をより明確にし、商品提案をわかり易く行おうというのが、戦略転換の本当の狙いなのでしょう。「縮小」というよりも、「ブラッシュアップ(改良)」と表現した方が正しいのではないでしょうか。
それにしても、ネット通販市場が拡大することで、紙媒体のカタログの価値が逆に高まるというのは、まるでパラドックスのように感じます。しかし、ネットリテラシーに関わらず扱いやすい紙は、それだけ各業態(カタログ通販、ネット通販、実店舗販売)の入り口として最適なのです。
ヴィクトリアズ・シークレットの関連記事(MarketWatch)
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《今回のヒントのまとめ》
- ヴィクトリアズ・シークレットが、長年販促の中心であったカタログを縮小するのは、ブランドロイヤルティや顧客との心的つながりを強化することにより、長期的成長を目指すからである。
- しかし、小売業界では、ネット専業企業も含めて、紙のカタログを再評価する動きが強まっている。というのも、依然カタログ通販利用者は多くおり、さらに、カタログを見ることで、通販サイトや実店舗で購入する消費者が多いからである。
- カタログの長所は、顧客との長期的な関係を築きやすいこと、カタログ通販だけではなくネット・実店舗の売上につながること、実店舗内を回遊しているような体験ができることである。
- 一方で短所は、情報が固定化されることで迅速な対応ができないこと、失敗回避のために価格訴求が中心になりがちなことである。
- 長期的成長を目指すヴィクトリアズ・シークレットは、ブランドや扱いカテゴリーを再編するために、カタログを一時的に縮小するだけで、結果的には改善することになるのではないか。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけたいいもの
満月ポンを知っていますか。
小学生の頃に好きだった、あのぽんせんです。
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満月ポン
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公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
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編集後記
アサヒの大型ビール新商品のザ・ドリームを飲んでみました。
糖質50%オフというヘルシー商品とあって、味は少し物足りなさを感じました。
逆に言えば、スーパードライの完成度がそれだけ高いという証拠でしょうか。
ドライプレミアムもリニューアルされていますね。
縮小続けるビール系市場ですが、今年は新商品が多いという印象です。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
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高尾亮太朗のPinterest⇒ pinterest.com/ryotarotakao/
今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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2016/04/20 | ファッション・アパレル業界 ダイレクトメール, ネット通販, 小売店, 販売戦略
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