【979号】ウォルマートしかアマゾンプライムに対抗できない理由
◎本日のニュース
1)見出し
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2)要約
ウォルマート・ストアーズ社は、アマゾンプライムに対抗するために、同様のサービスを約半額で提供する。これを可能にするのが、地場運送会社との配送ネットワークと、全米最大の自社トラック車両、ネット通販専用の巨大物流倉庫である。
他の実店舗型小売チェーンも、送料無料プランを提供するが、ウォルマートほどの物流コスト削減ノウハウは持ち得ない。この点で、アマゾンに対抗できる唯一の企業は、ウォルマートだけだ。
ただし、物量ベースでは、アマゾンは北米ウォルマートの7倍にも及ぶ。この巨大な物量が、アマゾンの配送コスト引き下げに大きく寄与している。
3)キーとなる英文
Wal-Mart Stores Inc. is testing a two-day shipping subscription service and building a regional delivery network, in the boldest attempt yet by a major traditional retailer to compete head-on with Amazon Prime.
4)キーとなる英文の和訳
ウォルマート・ストアーズ社が現在行っているのはは、翌々日配送のサブスクリプションサービスの試験販売と、地場配送ネットワークの確立である。
これらは、従来型大手小売業によるアマゾンプライム対抗策の一番大胆な試みであると言えるだろう。
5)気になる単語・表現
head-on | 副詞 | 正面に;単刀直入に |
fleet | 名詞 | 集団 |
meet | 他動詞 | ~と戦う、~に対抗する |
turf | 名詞 | 芝土;得意分野 |
tractor-trailer | 名詞 | 貨物トラック |
solicit | 他動詞 | ~を請い求める |
bid | 名詞 | せり;付け値;入札 |
woo | 他動詞 | ~にせがむ |
sprawling | 形容詞 | 無秩序な |
initiative | 名詞 | 構想;戦略;自発性 |
beef up | 他動詞句 | (法律・組織など)を強化する |
(今回ピックアップ英単語)
【solicit】
(英英)
「(人・店などが)(愛顧・援助・金銭など)を請い求める、懇願する」
ask somebody for something such as support, money or information; try to get something or persuade somebody to do something
offer
(同義語)
「せがむ」
press, pester, nag, tease, worry at, woo
(メモ)
記事では、wooも同様の意味で使われていた。
ただし、文中での使用方法は、solicitは入札の依頼、wooは提携の依頼。
サポートを請求するという意味では同じなので、同義語として考えていいだろう。
6)ビジネスのヒント
今回の記事もアマゾンに関して。直近発表されたアメリカ個人消費は増加したものの、その最大の要因はネット通販での利用拡大であり、消費のネットシフトはどんどん進行しています。割を食っているのは、既存の実店舗型小売チェーン。世界最大の小売チェーン・ウォルマート・ストアーズ社も、アマゾン対策に力を割いています。今回は、そのウォルマートのアマゾンプライム対抗策が取り上げられています。
なぜ、アマゾンプライムなのかについては、以前取り上げた記事を読んで貰えればわかるでしょう。
一言で言えば、アマゾンの売上拡大に一番貢献しているのが、アマゾンプライムなのです。だから、アマゾン対策の最右翼はアマゾンプライムにどのように対抗するかということになります。
ただし、ウォルマートには他にも理由があります。それは、
一番の強みである物流コスト削減能力を活かせば、アマゾンプライムに対抗できるサービスを提供しながら、収益を拡大できるから
です。世界最大の小売チェーンまで登り詰めたウォルマートの最大の成功要因は、物流コストの削減ノウハウ。打倒アマゾンで、この強みを活かさない手はありません。
ウォルマートのアマゾンプライム対抗サービス・シッピングパスの概要は、以下の通り。
【ウォルマートのシッピングパスとは】
- 年間49ドルで翌々日無料配送を提供
- 招待したユーザーのみ利用可能
1について、翌々日無料配送はアマゾンプライムと同じ。昨年は実験的に3日後配送を年間50ドルで提供してきました。これが好評だったのでしょう、5月12日より49ドルに値下げしました。ちなみに、アマゾンプライムの年会費は99ドルなので、ウォルマートのシッピングパスは、アマゾンプライムの半額以下になります。
2について、ただし、誰でもこのサービスに加入できるわけではありません。ウォルマートが選別した顧客のみが、入会できる権利を得られます。恐らく、ウォルマートの通販サイトでの、一回あたりの購入金額が大きい優良顧客のみ、招待しているのでしょう。これにより、収益悪化の回避とともに、選ばれた優良顧客の囲い込みが可能となります。
一見すると、アマゾンプライムの半額以下の破格サービスであり、ウォルマートの収益悪化が懸念されるところ。しかし、ウォルマートの得意技である物流コストの削減能力により、この破格サービスを提供しつつも、収益拡大が期待できるということになります。具体的には、次のような物流システムにより、シッピングパスの提供と収益拡大を両立しようとしています。
【シッピングパスの提供を可能にさせる物流システム】
- 地場運送会社との配送ネットワークの確立
- 全米トップ5に入る巨大な自社物流能力の活用
- 全米8ヶ所のネット通販専用物流倉庫の活用
1について、これはこれから目指すもの。特定の州しか配送しない地場の運送会社の活用に力を注ぎます。彼らの役割は、注文者の自宅までの配送であるラストワンマイル配送。アトランタで行われたカンファレンスに地場運送店を招待し、安定した物量と戦略パートナーというメリットを提供して、参加を呼びかけました。地場運送店に目を付けたのは、フェデックスやUPSなどの全国ネットワークを持つ運送店よりも、運賃が安いから。最大でも約3分の1の運賃なので、物流コスト削減を目指すウォルマートにとって活用しない手はありません。
2について、1の背景には、巨大は自社物流トラックの存在があります。記事冒頭の画像にもありましたが、ウォルマートは6000台にも及ぶ貨物トラックを所有しています。これは全米トップ5に入る規模のようです。この膨大な貨物トラックを活用すれば、長距離大量輸送が可能になります。もちろん、一回の輸送量が巨大なので、競争力の高い配送コストになります。その上で、一番コストの掛かるラストワンマイルには、相対的に運賃の安い地場運送店を活用すれば、全体の配送コストを削減できます。
3について、ウォルマートはネット通販売上拡大のために、20億ドルもITと物流に投資してきました。その一つが、ネット通販専用の物流倉庫です。この物流センターを全米に8ヶ所も持つことにより、物流コストを削減できます。
これら3つの物流システムにこれまで培ってきた物流ノウハウを組み合わせることで、スピード配送と中継輸送の削減が可能となります。この結果、年間49ドルの翌々日無料配送の提供が、可能になるのです。
もちろん、ウォルマート以外の小売チェーン・ネット通販専業も、アマゾンプライム対策に力を注いでいます。
【他社のアマゾンプライム対策】
- ターゲット社→ストアクレジットカード・デビットカードの支払で送料を無料に
- オーバーストックドットコム社(過剰在庫・処分品専用サイト)→年間20ドルで送料を無料に
- トイザらス社・サックスフィフスアベニュー・ステープルズ社→ショップランナー社との提携で、年間79ドルの翌々日無料配送を提供
- イーベイ社→ドイツで翌々日無料配送を提供
いずれも、アマゾンプライムを意識した送料無料プランを提供していることがわかります。しかし、物流コスト削減に関しては、ウォルマートに優る企業はありません。
しかし、ウォルマートの物流コスト削減の強みを持ってしてアマゾンに対抗できるかは、疑問です。というのも、アマゾンにはウォルマートにはない次のような強みがあるからです。
【ウォルマートですら敵わないアマゾンの強み】
- アマゾンプライムでは動画配信や割引などの特典を拡充
- 書籍・家電から始まり、食品・ファッション・雑貨など取扱カテゴリーを拡大
- 物量はウォルマートの約7倍
- 意外にコストが掛かるとされるネット通販のコスト削減に強み
1について、年間99ドルと高いものの、動画配信・音楽配信から割引まで特典を拡大しています。これらを考慮すれば、送料無料特典しかない49ドルのシッピングパスよりも、アマゾンプライムの方が魅力的かもしれません。また、動画配信などの利用が習慣化すれば、いくらシッピングパスが割安でも、アマゾンプライムをやめられなくなります。だからこそ、グローバルで5000万人も契約しているのでしょう。
2について、ウォルマートがアマゾンを警戒するのは、取扱カテゴリーを今でも拡大しているからでしょう。購入頻度の高い食品まで扱い、さらにそのPB化も進めて、商品での差別化も進めています。これは、ウォルマートを含めた実店舗型小売チェーンの戦略と同じです。
3について、アマゾンの物量は、北米ウォルマートネット通販の約7倍に及ぶようです。ここまで物量に差が付けば、外部委託の運賃はアマゾンの方がずっと安くなります。ウォルマートがこれから提携を進めようとしている地場運送店は、アマゾンの主要委託先でもあるので、この大きな物量差があるかぎり、運賃ではアマゾンが圧倒的に有利です。
4について、ネット通販は無店舗販売なので低コストと思われがちですが、実際には予想以上にコストの掛かるチャネルのようです。これを実感しているのが、既存の実店舗型小売チェーン。ウォルマートも同様です。逆に考えれば、ネット専業首位のアマゾンは、実店舗型小売チェーンが苦手とするネット通販でのコスト削減能力が高く、これが強みとなります。
これらアマゾンの強み対して、ウォルマートは80以上の実店舗をネット通販物流のハブとして活用。さらに、ネット注文の品を実店舗で受け取るオムニチャネル戦略も、進めています。アマゾンにない実店舗を、ネット通販に活かそうとしているのです。
どちらに軍配が上がるかはわかりませんが、年間49ドルのシッピングパスが、アマゾンプライムにどのように影響を与えるかは注目に値するでしょう。
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《今回のヒントのまとめ》
- ウォルマートは、アマゾンの強みであるアマゾンプライムに対抗して、アマゾンプライムの半額以下で翌々日無料配送サービス・シッピングパスの提供を始めた。
- この破格のサービスが可能なのは、ウォルマートが物流コストの削減という強みを持つからである。他の小売チェーンもアマゾンプライムに対抗すべく送料無料プランを提供するが、物流コスト削減能力の高いウォルマートこそが、アマゾンの好敵手だろう。
- 具体的には、地場運送店との配送ネットワークの確立と、巨大な自社貨物トラックの活用、全米8ヶ所のネット通販専用物流倉庫の活用により、スピード配送と物流コスト削減の両立を目指す。
- ただし、アマゾンプライム特典の拡大や扱いカテゴリーの拡大、圧倒的に大きな物量による運賃の安さ、実店舗型小売チェーンが苦手とするネット通販のコスト削減能力の高さゆえに、打倒アマゾンは容易いものではない。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけた気になるもの
ホッピーに似た商品として、ハイッピーがあるようです。
飲んだことはありませんが、ハイッピーの方がより経済的だとか。
どちらもビール系の飲料ですが、ハイッピーにはレモン風味あるようです。
個人的には、ホッピー飲むならビール(いや新ジャンル)なので、買うことはないとは思いますが、居酒屋であったら一度ハイッピーも飲んでみたいと思います。
ちなみに、ハイッピーは比較的味が薄く、評価が分かれるようです。
楽天市場でも売っているのですが、ケース売りだから躊躇します。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、7年経ちました。
この7年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
阪神タイガースについて、三番大和には驚きました。
急ぎにて、今回はこれまで。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
高尾亮太朗のTubmlr⇒ ryotarotakao.tumblr.com
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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