【993号】アマゾンが評価の良くない注文端末ダッシュ・ボタンを拡充する理由
◎本日のニュース
1)見出し
Amazon to Add Dozens of Brands to Dash Buttons, but Do Shoppers Want Them?
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2)要約
アマゾン・ドット・コム社は、注文用ボタンのダッシュ・ボタンのラインナップを2倍に拡充する。しかし、一方でダッシュ・ボタン購入者の利用率は想定よりもかなり低い。
ダッシュ・ボタンは、ボタンを押すだけで指定の商品の注文が完了する。アマゾンはダッシュ・ボタンにより、買物をより手軽にするとともに、顧客の囲い込みを目指した。しかし、価格がわからないなど利用勝手の悪さや、自社内外サービスとの競合に直面している。
3)キーとなる英文
Amazon.com Inc. is doubling down on its Dash push-button ordering devices, getting consumer-products makers to invest in the gadgets even amid evidence that consumers are cool to them.
4)キーとなる英文の和訳
アマゾン・ドット・コム社は、ダッシュという押しボタン式注文端末を2倍に拡充する。
これにより、消費財メーカーにこの端末への投資を促す。
しかし、消費者がこの端末に対して冷めているというのも事実である。
5)気になる単語・表現
double down on | 自動詞句 | リスクを覚悟で(介入・投資など)を増やす |
feature | 名詞 | 特徴;目玉商品 |
intuitive | 形容詞 | 直観の |
atop | 前置詞 | ~の頂上に、~の上に |
hefty | 形容詞 | たくさんの;高額の;強力な;たくましい |
supplant | 他動詞 | ~に取って代わる |
vulnerable | 形容詞 | 傷つきやすい;負けやすい |
address | 他動詞 | ~を申し入れる |
ridicule | 名詞 | 嘲笑 |
stash | 他動詞 | ~を隠す |
(今回ピックアップ英単語)
【supplant】
(英英)
take the place of somebody/something ( especially somebody/something older or less modern )
(同義語)
「取って代わる」
replace, take the plece of, take O’s place, supersede
6)ビジネスのヒント
アマゾン・ドット・コム社の押しボタン式注文デバイス、ダッシュ・ボタン。昨年3月に発売されたのですが、最近WSJではあまりお目に掛かりません。久しぶりの記事によると、そのラインナップを拡充するようです。
【ダッシュ・ボタンの特徴】
- ボタンを押せば、指定商品を注文できる便利な端末
- 冷蔵庫や洗濯機など注文品をよく使う場所に設置しやすい小型サイズ
- 2015年3月発売
- プライム会員のみ利用可能
1のように、注文するのにアプリを起動したり、サイトに訪問したりする必要はありません。注文商品や決済方法などを事前に指定する必要はありますが、ボタンを押すだけで注文・決済まで完了します。利便性の高いサービスです。
2について、想定する注文商品の代表格が、洗剤。そこで、洗剤を利用する場所にある冷蔵庫や洗濯機に取り付けやすい小型サイズとなっています。
3について、発売後まだ1年半ほどしか経っていないので、知名度の低さは否めません。
4について、しかもダッシュ・ボタンを利用できるのが、有料会員のプライム会員だけ。逆に言えば、せっかく年会費99ドルを支払っているからこそ、利用を促進できるとも捉えることができます。
アマゾンがこのような特徴を持つダッシュ・ボタンをリリースしたのは、次のような目的からです。
【ダッシュ・ボタンの目的】
- 買物の利便性を向上→客数の拡大
- 顧客の囲い込み
いずれも客数絡みです。1について、アプリを起動するわけでもなく、サイトにアクセスするわけでもなく、ボタンを押すという簡単な行為にすることで、買物ハードルを下げることができます。これにより、客数の拡大が期待できます。プライム会員のみの利用なので、より詳しく言えば、購入機会の増加でしょうか。
2について、1より重要なのがこの顧客の囲い込み。このような簡単な操作(ボタンを押すだけ!)で注文が完了することで、ドラッグストアなど競合の実店舗やサイトを訪れる確率が低くなります。この結果、顧客の「浮気」を回避できます。
このように顧客の維持・拡大に寄与することにより、アマゾンの収益を拡大させるのですが、次のような仕組みもアマゾンの収益にプラスに働きます。
【ダッシュ・ボタンの特別な収益性】
- ボタン1個販売につき15ドル
- 一回の注文につき手数料15%
→すべて参加メーカー負担
1について、ボタンにはメーカーのブランドが記載されており、そのブランドの注文に限られた端末のため、メーカーが端末コストの一部を負担します。
2について、注文があれば一回につき売上金額の15%をメーカーが負担します。これは、通常の8~15%の手数料とは別の、ダッシュ・ボタン特別手数料となります。
1・2のように、アマゾンはダッシュ・ボタン経由の売上が伸びるほど、通常売上よりも稼ぎやすくなります。だから、アマゾンはダッシュ・ボタンの拡充に力を入れることになります。
ちなみに、プライム会員が支払うダッシュ・ボタン端末代は5ドル。ただし、購入すれば5ドルのクーポンがもらえるので、実質無料で配布されているのが実態です。だから、ダッシュ・ボタン利用者はある程度増えるのですが、その利用実態は想定外の低さとなっています。つまり、顧客はダッシュ・ボタンにそっぽを向いていることになります。
【ダッシュ・ボタンが顧客に不人気な点】
- 価格表示がなく、高値で購入するリスクが生じるから
- 思ったほど時短効果が見込めないから
1は、実際に顧客の声として記事で紹介されていたもの。ボタンを押すだけで指定商品が注文できるものの、価格は指定されていません。つまり、思わぬ高値での購入リスクが生じるのです。だから、ボタンを押す前に毎回価格をチェックする必要があり、利便性が高いとは言えません。
2は、あくまで私の推測ですが、プライム会員だけに、アマゾンアプリやサイトの利用機会は非会員よりも多いもの。ならば、その際に必要なものを注文すればいいのです。わざわざアプリやサイトを利用したことにならないだけに、ボタンの時短効果は薄まります。
また、次のような外部環境の変化が、ダッシュ・ボタンの優位性を損なわせています。
【ダッシュ・ボタン利用に関わる外部環境の変化】
- 自社サービスとの競合(エコー&タップ、定期購入サービス)
- 他社サービスとの競合
1について、アマゾンは、「エコー&タップ」というバーチャル問い合わせと声による注文というサービスを開始しました。これは、将来的にダッシュ・ボタンの代替となりえます。ボタンというハードが不要な点も、ダッシュ・ボタンよりもその利便性は高いと言わざるを得ません。ちなみに記事では、ダッシュ・ボタンからエコー&タップへのシフトが、どの程度起こっているかについての言及はありません。また、定期購入サービスを利用すれば、いちいちボタンを押す必要さえもなくなります。
2について、同様のボタンを使ったサービスが登場しています。カリフォルニアのクウィック・コマース社が、ダッシュ・ボタンに似たボタンを開発。オムツやビールなどにボタンのラインナップを増やすために、300万ドルの資金調達に成功しました。今後力を入れるのが、宅配ピザなどの飲食の宅配サービス。ドミノ・ピザ社との提携にも成功しました。物販よりも粗利率が高いことが、アマゾンにはない優位性だとしています。
他社サービスはまだこれからの段階なので、ダッシュ・ボタンが不人気な要因は、1の自社サービスとの競合が一番大きいと言えるでしょう。実質無料だとはいえ、わざわざボタンを設置することさえ面倒であり、ボタンが邪魔になり兼ねません。アプリで十分というのが、プライム会員の本音ではないでしょうか。
会員に不人気にも関わらず、アマゾンはダッシュ・ボタンの拡充を行います。その理由は、以下の通り。
【顧客に不人気のダッシュ・ボタンを拡充する理由】
- ダッシュ・ボタンの採用を目指すメーカーが多いから
- 利用率が低くてもアマゾンにとっては収益にプラスに働くから
1は、ダッシュ・ボタン採用を目指すメーカーの存在。アマゾンに擦り寄るメーカーが増加しているのです。その理由は、アマゾンの販売力と潜在成長力の高さです。つまり、アマゾンとの関わりを深めることで、今後も成長する可能性の高いアマゾンのおこぼれを貰えるからです。
また、アマゾンの持つ豊富なマーケティングデータが魅力的なため、アマゾンとの関わりを増やそうと考えるメーカーも増えています。アマゾンは、販売データのみならず、購入前の閲覧データ、そして購入後のレビューも持ちます。これらのデータを活用することで、より成功確率の高い商品開発を行うことが可能になります。アマゾンの持つデータは、メーカーにとって魅力的なのです。
2は先述の通り、ダッシュ・ボタンでの購入が増えることにより、アマゾンは追加コストが発生しないどころか、特別手数料の収入が見込めます。例え利用率が低くても、新たな固定費がほとんど生じないため、収益にはプラスになってもマイナスにはならないのです。
手数料負担よりも便益の方が大きいと考えるメーカーの存在、アマゾンの得する仕組みゆえに、例え利用率が低くてもダッシュ・ボタンのラインナップは拡充されるのです。
【注目点】
- 価格の不明瞭な商品は顧客離れを起こしやすい
- 集客力の高いサービスは、企業へのデータ販売が期待できる
1について、ダッシュ・ボタンの致命的な点は、購入前に価格を確認できないこと。これに対しアマゾンは、顧客が要求すれば価格をテキストメッセージで購入前に提供しています。ただし、「要求すれば」です。ボタンを押すだけで注文が完了するだけに、この「要求」はつい忘れやすくなり、結果的に価格の不明瞭なサービスに成り下がったのです。価格の不明瞭さに対して顧客がノーと言ったことは、注目に値します。
2について、アマゾンの本当の強みは、その集客力の高さ。その結果、顧客の購入前データ(閲覧データなど)や購入データ・購入後データ(口コミ)が集積されます。これを欲しがる企業があるなら、売ればいい。ダッシュ・ボタンの特別な収益性は、この企業ニーズに着目したことから生まれたと言っても過言ではありません。ウェブサイトのみならず、集客力の高い実店舗型ビジネス(カフェ・レストラン・書店・レジャー施設など)は、顧客データを収集することで、新たな収益源を獲得できるのです。
Amazon Dash Button
Kwik
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《今回のヒントのまとめ》
- アマゾンが利用率の低いダッシュ・ボタンのラインナップを拡充するのは、アマゾンとの関わりを深めたいメーカーが存在するからである。また、たとえ利用率が低くても、ダッシュ・ボタン経由の販売は、アマゾンの収益性にプラスに働くことも、大きな理由である。
- 消費財メーカーがアマゾンとの関わりを深めたいのは、その販売力・潜在成長力の高さのみならず、購入前を含めた豊富な顧客データを持っているからである。このデータを活用することで、成功率の高い商品開発を行える。
- ダッシュ・ボタンの利用率が低いのは、購入前にその価格がわかりにくいことが一番大きい。価格の不明瞭な商品は、顧客離れを起こしやすい。
- また、エコー&タップや定期購入サービスなど、自社のサービスとの競合も大きな要因。そもそも、アプリ・サイトへの訪問機会の多いプライム会員限定のサービスゆえに、その時短効果が薄いことも考えられる。
- アマゾンのような集客力の高いサービスは、顧客への商品販売のみならず、企業へのデータ販売という新たな収益源も期待できる。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけた気になるもの
アサヒのスーパードライプレミアムがリニューアルされました。
今回は、「豊穣(ほうじょう)」という名前です。
(思わず、阪神で頑張っている北條選手が頭に浮かびましたが)
今回はサンプル缶を頂いたのですが、これがなかなかの苦味。
プレモルやエビスのような独特の味わいよりも、苦味が強いという印象です。
アルコール度数6.5%というのが効いたのでしょうか、「さわやかさ」というよりも「どっしり」したという感じ。
旧ドライプレミアムとは、随分変わりました。(旧ドライプレミアムはプレモルに似ている)
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、7年経ちました。
この7年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
ボタンという発想は面白いですね。
IoTの走りとも言えるでしょうか。
でも、アプリで十分でしょうね。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
高尾亮太朗のTubmlr⇒ ryotarotakao.tumblr.com
高尾亮太朗のGoogle+⇒ gplus.to/ryotarotakao
高尾亮太朗のPinterest⇒ pinterest.com/ryotarotakao/
今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
ご質問・ご相談・ご感想がございましたら、ご連絡ください。
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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