【999号】ユニリーバがひげそり用カミソリ通販のダラーシェイブクラブを買収する理由
◎本日のニュース
1)見出し
Unilever Gets More Than a Name in Dollar Shave Club
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2)要約
ユニリーバ社が10億ドルでカミソリ通販のダラーシェイブクラブを買収するのは、全米での髭剃り市場で足場を築くとともに、エンドユーザーのデータを収集するためである。利用者のデータの収集・分析により、商品のターゲットをより細分化し、より効果的な販促を実施する。
データ収集に力を入れるのは、アマゾン・ドット・コム社などネット専業企業によるオンラインデータ獲得競争が激化しているからである。ネット専業企業は、競合メーカーではないものの、大量のデータ収集・分析を通じて、バリューチェーンの主導権を握られる恐れがある。
3)キーとなる英文
Unilever PLC’s $1 billion deal to buy Dollar Shave Club is the consumer-goods giant’s latest effort to get a leg up on rivals in the fight for customer data.
4)キーとなる英文の和訳
ユニリーバ社による10億ドルのダラーシェイブクラブ買収は、消費財大手企業が顧客データ獲得競争を有利に進めようとする最新事例である。
5)気になる単語・表現
have a leg up on | 他動詞句 | (人)より有利である |
ammunition | 名詞 | 弾薬;攻撃手段 |
harness | 他動詞 | (自然の力)を(動力源に)利用する |
burgeon | 自動詞 | 急に発展する;急増する |
plethora | 名詞 | 過多 |
fulfill | 他動詞 | ~を果たす |
insight | 名詞 | 洞察 |
feed | 他動詞 | (情報など)を与える;~に供給する |
deduce | 他動詞 | (結論)に達する;(結論など)を(一般原理などから)推定する |
messy | 形容詞 | 散らかった |
pile | 他動詞 | ~を積み上げる;(髪)を盛り上げる |
contrive | 他動詞 | ~をたくらむ |
dandruff | 名詞 | (頭の)フケ |
trawl through | 自動詞句 | ~の中を探す、調べる |
(今回ピックアップ英単語)
【deduce】
(派生語/類似語)
deduction 「差し引き、控除、値引き」「演繹法」「推論;その結果」
deduct 「(一定の金額・一部分など)を(全体から)差し引く、控除する」
(類義語)
「演繹する」 derive
「推論する」 reason, infer
「選任する」 elect, adopt, constitute
「割り出す」 calculate
(コメント)
deductionは、deduceとdeductの名詞形。
会計では、
deduct an expense 「費用を控除する」
という熟語で使われる。
6)ビジネスのヒント
ダラーシェイブクラブについては、このメルマガで何度か取り上げました。
【552号】ダラーシェイブクラブ、寡占のカミソリ市場に新規参入できた理由とは?
【886号】ジレットがマーケティングをバリュー訴求に変えざるを得なかった理由
ダラーシェイブクラブの概要をまとめると、次のようになります。
【ダラーシェイブクラブのサービス概要】
- ひげそり用の使い捨てカミソリとその他ひげそり関連商品の直販型サブスクリプションサービス
- 会員数320万人
- 依然赤字
ジレットなど大手の寡占化が進むひげそり用カミソリ市場に、スタートアップ企業がサブスクリプションサービスで参入し、しかも会員数を伸ばしているということで話題になっています。(だからWSJでも記事に)ただし、まだ黒字化には至っていません。そのダラーシェイブクラブを、生活用品大手のユニリーバ社が買収するようです。買収金額は10億ドル。
買収理由・目的は、ひげそり関連用品のサブスクリプションサービスに参入するためではありません。本当の狙いは、ダラーシェイブクラブが持つエンドユーザーのデータんおです。
【ユニリーバ社がダラーシェイブを買収する理由】
- エンドユーザーに関する独自データを収集・分析することで、競争力向上につながるから
- 全米のひげそり関連品市場で足場を築くため
- 低成長の食品から、将来性の高い家庭用・個人用ヘア用品にシフトするため
- ユニリーバ社のネット通販比率は1%にすぎないが、増加率は凄まじいため
1について、これが理由の本丸。ユニリーバなど大手メーカーは、従来小売店などの流通相手の商売が主であり、エンドユーザーに対してはマスメディアや小売店での店内販促を通じてコミュニケーションを取っていました。しかし、今では通販サイトやSNSを通じて、エンドユーザーのデータを取得することが容易になり、データ獲得競争が激化。P&Gなどの競合メーカーのみならず、アマゾン・ドット・コム社などネット専業企業との競争も無視できなくなりました。この競争を有利に進めるには、収集するデータ量を最大化するとともに、より精度の高い分析を実施しなくてはなりません。前者において、320万人もの会員を持つダラーシェイブクラブは、ユニリーバ社にとって魅力的なのです。
2について、アメリカのひげそり関連市場のトップシェアは、P&G傘下のジレット。この市場に足場を築くためにも、アメリカでサービスを提供するダラーシェイブクラブを買収するのです。あくまで推測ですが、今後ダラーシェイブクラブブランドのひげそり関連商品が、ウォルマートなどの小売店で販売されることも、十分想定できます。
3について、これはユニリーバ社全体の経営戦略に関してですが、低成長の食品から高成長が期待できる家庭用・個人用ビューティーケア商品への移行を進めています。ダラーシェイブクラブ買収は、この戦略の一貫なのです。
4について、大手量販店が主販路のユニリーバ社にとって、ネット通販は全売上の1%にすぎません。しかし、売上増加率は、なんと50%もあるのです。(2015年)さらに、ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コム社は、個人用ビューティーケア商品を含む家庭用消耗品市場にまで進出。よって、今後市場全体のネット通販比率は急速に高まることが考えられます。この外部環境の変化に対して、ネット専業のダラーシェイブクラブを有することはユニリーバ社にとって大きな武器になるのです。ダラーシェイブクラブを通じて、ひげそり関連品以外のユニリーバ製品の販売も行えるからです。
ダラーシェイブクラブ買収の主目的がデータ収集であるように、ユニリーバ社はマーケティングにおけるデータ活用を積極的に実施しています。
【ユニリーバ社のエンドユーザーデータ活用事例】
- ヒューマラショップ(インド):エンドユーザーと数多くの小型商店をつなぐポータルサイト。他社製品も含めて、エンドユーザーに人気の商品データを収集できる。
- ヘアケア商品のメスィーバン販促:無造作に頭上にだんごを作る女性のヘアスタイルの動画マーケティングを実施。ブロガーの自社製品利用も促す。
- ヘアケアブランド・クリアの販促:SNS上で冬にフケに関する話題が増えたことに対応
- 雨の日前のアイスクリーム販促:雨の日は自宅でアイスクリームを食べながら映画を観る英国人が多いことに対応
1は、海外でのデータ収集策。ヒューマラショップという、エンドユーザーと小規模商店を結ぶポータルサイトを運営しています。よって、扱い商品には、他社製品も含まれます。詳しいことは記事には記載されていませんでしたが、このサイトの主目的は、他社製品も含めたエンドユーザーのデータ。恐らく、どの商品がどの層に人気が高いなどのデータを収集するものと思われます。
2は、商品販促におけるネット活用事例。ユニリーバ社は、2016年はメスィーバンの時代と位置付け。メスィーバンとは、頭の上に無造作なだんごを作った女性用髪型。このメスィーバンの作り方のチュートリアル動画を作成し、ブロガーの記事作成を支援しました。(有償・無償)これにより、メスィーバンの知名度・人気が高まるとともに、ユニリーバ製ヘアケア商品の販売も増加。ブロガーによる利用増(≒売上増)という付帯的な効果もあったようです。
3・4は、SNS等の消費者の話題から実施した商品販促が、売上増につながったという事例。ユニリーバ社は、SNSなどから総数1億人のデータを収集し20万にも及ぶ会話を分析しているようです。このようなデータ収集・分析により、冬にフケが増えていたり、雨の日の自宅でアイスクリームが食べられたりする事実を発見し、店頭販促で需要を喚起することで、売上増に成功しました。
【注目点】
- 大手消費財メーカーが、ネットを通じたエンドユーザーとの接触機会の最大化を目指している
- 小売のネット通販専業企業は、データ獲得競争においては競合する
注目点の一つ目は、小売店経由でエンドユーザーに販売する大手消費財メーカーが、ネット経由でのエンドユーザーとの接触機会を増やそうと努力している点です。従来はマスメディアや店頭を通じたもので、主に商品・ブランドの認知を深めることが主因でした。しかし、今では、直接エンドユーザーと接触することで、エンドユーザーのデータを取得することが一番の目的です。そして、集めたデータを分析することで、商品開発・販促の成功確率を高めて、収益拡大を狙っているのです。さらに言えば、直接のコミュニケーションを通じて、ブランドロイヤルティを高め、生涯の収益貢献の最大化を目指しているのです。
二つ目は、アマゾン・ドット・コム社に代表されるネット通販専業企業は、消費財の小売を担うものの、データ獲得競争においては消費財メーカーと競合するということです。通常、アマゾンが通販対象商品をヘアケア商品など家庭用消耗品にまで拡大することは、メーカーであるユニリーバ社にとって、販路拡大につながるのでプラスのはず。しかし、データ獲得競争においては、アマゾンがより多くのエンドユーザーのデータを獲得することになるので、ユニリーバ社にとってマイナスになるのです。データ獲得競争では、エンドユーザーとの接触機会の多さがモノをいうことになります。
マス向け商品と言えども、顧客であるエンドユーザーの個別データが重要になるのです。大手企業のネット活用は、今後とも増えることは間違いないでしょう。逆に言えば、それだけ、売るのは難しくなったとも言えます。
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《今回のヒントのまとめ》
- ユニリーバ社が、ひげそり関連商品サブスクリプションのダラーシェイブクラブを赤字でも10億ドルも出して買収するのは、会員320万人のデータ取得が、競争力向上に大きく寄与すると考えているからである。
- また、ジレットが牛耳る全米ひげそり商品市場への足場作りや、低成長の食品から高成長が期待できる家庭用ケア商品へのシフト、急成長するEC強化の意味合いもある。
- 消費者のオンラインデータが急増する中、データ獲得競争が、激しくなっている。ユニリーバ社が競合するのは、大手メーカーのみならず、エンドユーザーとの接触機会の多いネット専業企業も含まれる。ダラーシェイブクラブの会員データ獲得で、この競争を有利に進めることができる。
- 実際ユニリーバ社は、データ獲得目的でインドではエンドユーザーと小型商店とを結びつけるポータルサイトを運営。また、メスィーバン作成の動画をブロガーに提供することで、ヘアケア商品の販売増に成功した。さらに、SNS上の会話を分析することで、ヘアケア商品とアイスクリームの販促に成功した。
- マス商品主体の大手消費財メーカーと言えども、エンドユーザーとの接触機会を最大することで、商品開発・販促の成功確率を高める必要がある。逆に言えば、マス広告や店内販促だけでは、思うように売れないとも言えるだろう。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけた気になるもの
アサヒのスーパードライプレミアムがリニューアルされました。
今回は、「豊穣(ほうじょう)」という名前です。
(思わず、阪神で頑張っている北條選手が頭に浮かびましたが)
今回はサンプル缶を頂いたのですが、これがなかなかの苦味。
プレモルやエビスのような独特の味わいよりも、苦味が強いという印象です。
アルコール度数6.5%というのが効いたのでしょうか、「さわやかさ」というよりも「どっしり」したという感じ。
旧ドライプレミアムとは、随分変わりました。(旧ドライプレミアムはプレモルに似ている)
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、7年経ちました。
この7年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
ダラーシェイブクラブは、2012年創業。
たった4年間で、時価総額10億ドルにまでなったのは、まさにアメリカンドリームです。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
高尾亮太朗のTubmlr⇒ ryotarotakao.tumblr.com
高尾亮太朗のGoogle+⇒ gplus.to/ryotarotakao
高尾亮太朗のPinterest⇒ pinterest.com/ryotarotakao/
今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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2016/08/01 | 消費財メーカー ネット通販, ブランドロイヤルティ, 販売戦略, 顧客戦略
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