【1031号】ターゲットがネット専用ひげ剃り用カミソリを店頭販売する理由

target

◎本日のニュース

1)見出し

Online Upstart Harry’s Razor Jumps Into Gillette’s Turf

毎週火曜・土曜の18時、メルマガにて配信。

（サイトへの掲載は、翌日以降です。）

ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、

メルマガの登録をお願いします。（もちろん無料です。）

2)要約

ディスカウント大手のターゲット社は、ネット専用でサブスクリプション販売されているハリーズの男性用カミソリ・替刃を、店頭販売し出した。目立つ売場で、既存販売品にはない手頃な中間価格帯というのが、特徴である。

この背景には、ターゲットの既存店売上低下がある。2年ぶりに既存店売上が減少し、その要因は、カミソリのような消耗品をネット通販で購入する消費者が増加し、客数が減少したからである。特に、電動を除く男性用カミソリ・替刃の売上は、年間で5％も減少している。

ネットでしか販売していなかったお手頃価格のハリーズの商品を扱うことで、中間価格帯への需要に対応することができる。ハリーズにとっても、ネットではリーチできない顧客層を開拓することができる。

3）キーとなる英文

When Target Corp. opened its razor aisles to an online upstart, Gillette paid the price.

4）キーとなる英文の和訳

ターゲット社は、ネットスタートアップ企業にカミソリ売場の門戸を開いた。

この犠牲になったのは、ジレットである。

5）気になる単語・表現

price	名詞	代償
off balance	形容詞	バランスを失って；不安定な状態になって
upheaval	名詞	大変動
poke fun at	他動詞句	～をからかう
rafts of	名詞句	多数の

（今回ピックアップ英単語）

【からかう】

poke fun at = make fun of

Don’t make fun of him because he cannot write his name.

「名前が書けないからといって、彼をからかってはいけない。」

6)ビジネスのヒント

ネット通販（特にアマゾン）に顧客を奪われている実店舗小売ですが、その筆頭格のターゲット社が、ネットサブスクリプション販売している商品の店頭販売に踏み切るようです。敵に塩を送るようにも思えますが、ターゲットにも収益上十分効果が見込めます。

その商品とは、ハリーズ・レザー社の男性用シェービングカミソリと替刃。P&G傘下のジレットが牛耳っているカテゴリーです。シェービングカミソリ・替刃のネットサブスクリプション販売と言えば、ダラーズ・シェーブ・クラブが有名ですが、ハリーズはシェアは大きく離されるものの、ネットサブスクリプションのカミソリ市場では、第三位のシェアを持っているようです。（一位はもちろんダラーズで、二位はジレットの同サービスであるジレット・シェーブ・クラブ）

では、実店舗小売のターゲットが、ネット専業ハリーズのカミソリ・替刃を店頭販売する理由をまとめると、次のようになります。

【ターゲットがネット専用のカミソリ・替刃を店頭販売する理由】

減少傾向の客数増に寄与し、高利益商材の販売にもつながるため
ターゲットのカミソリ売上が減少し、売場テコ入れが必要なため
圧倒的シェアを持つジレットの交渉力を削ぐため
ハリーズの持つ顧客データを活用し、販売確率を高めるため

1について、ターゲットは2年ぶりに既存店売上がマイナスに転落。この要因は、日常的に使用する消耗品の売上が、ネット通販に奪われているから。それだけ、消耗品をネットで購入する消費者が増加していることになります。

2について、男性用ひげ剃り用カミソリ・替刃の売上も減少しています。1・2から言えることは、カミソリのような店頭で購入することの多い（多かった）商品がネット通販で購入されることが多くなり、客数が減ったということです。このテコ入れのために、着目されたのが、ネットサブスクリプションで販売されているハリーズのカミソリ・替刃。ハリーズの商品は中間価格帯（5.99ドル～15.99ドル）で、ジレットの低価格帯・高価格帯（1・89ドル～49.99ドル）の穴を埋めてくれることになります。このお手頃価格のカミソリ目当てに来店してくれる消費者が増えれば、客数が増えるだけではなく、アパレル・家庭用品などより利益率の高い商材の販売にもつながるので、ターゲットの収益拡大に寄与することになります。ちなみに、カミソリ・替刃自体の利益率はかなり低いようです。

3について、ジレットの全米カミソリシェアは70％から60％に低下したものの、それでも巨大。このような巨大シェアを持つ企業をサプライヤーに持つと、その交渉力の高さゆえ、仕入れを有利に行うことは難しくなります。ターゲットがハリーズの店頭販売を開始するだけではなく、目立つ売場を提供したのには、ジレットへの牽制という意味合いもあります。

4について、ネット専業のハリーズは、サブスクリプション販売を通じて、顧客の販売データのみならず、意見などのフィードバックも多く蓄積しています。ターゲットはハリーズと提携することにより、その豊富なデータを売場作り・販促に活用することが可能になります。販売確率が高まることは、間違いありません。

ターゲット店頭でのハリーズ商品の売り方をまとめると、次にようになります。

【ターゲット店頭でのハリーズ商品の販売方法】

カミソリ売場の目立つ場所で販売
目立つディスプレーを設置
既存販売品にはなかった中間価格帯に価格設定
ターゲットの通販サイトでも販売

1・2で、埋没しがちな新商品を目立つようにしています。3により、カミソリ・替刃の価格が高いという顧客の不満に対応。既存品が低価格帯・高価格帯しかなかったので、中間価格帯のハリーズ投入で、需要に応じることができます。4により、店頭のショールーミングを回避。ターゲット店頭で確かめて、ハリーズサイトで購入することは十分予測できます。これをクリアするために、ターゲットの通販サイトでも販売することにしたのでしょう。

このような販売方法により、ハリーズ商品の売れ行きは上々のようです。ターゲット販売分における、カミソリカートリッジ（替刃）シェアは10％、カミソリはなんと50％を獲得しています。全米シェア2％を比較すると、ターゲットでの売れ行きの良さがわかるかと思います。

割を食ったのが、ジレット。ハリーズやダラーズなどネットサブスクリプション販売の開始後、ジレットのシェアは70％から60％に低下。この対策として、ジレットも「ジレット・シェーブ・クラブ」という名称の直販型サブスクリプション販売を開始しています。恐らく、ターゲット店頭でのハリーズ商品販売開始により、ターゲットにおけるジレットのシェアも低下していることでしょう。

ハリーズにとっても、ターゲット店頭販売は大きなメリットがあります。

【ターゲット店頭販売によるハリーズのメリット】

ネットではリーチできなかった顧客層を獲得することができる
ターゲットでの商品確認が可能になり、不安だった見込み客と契約できる
ターゲットとの取引開始により、信用度が向上する

1・2・3とも、ネット専業のデメリットを克服できるということです。特に、3の信用度アップは、今後のビジネス展開にかなり有利に働くことでしょう。

【注目点】

巨大シェアを持つ企業は、取引先にとって脅威である
実店舗小売企業にとっても、フィードバックを含めた顧客データはより重要になる

1について、仕入れ・販売いずれにしても、巨大シェアを持つ企業はその交渉力が強くなります。その中で交渉を有利にするには、ターゲットのような巨人の力を削ぐ措置が必要になるのでしょう。戦略性を要します。

2について、実店舗小売業が、ポイントカードの発行やネット通販IDとの統合を行うのには、目的があります。それは、顧客データの取得。そして、その先には販売確率の向上があります。逆に言えば、データを活用しなければならないほど、競争は激化し、販売が難しくなったとも言えるでしょう。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

《今回のヒントのまとめ》

ターゲット社が、ネット専業のカミソリサブスクリプション販売のハリーズ・レザー社の商品を、店頭で販売し始めた。その理由は4つある。
2年ぶりに既存店売上がマイナスに転じたことにより、ネットに奪われた消耗品販売をテコ入れし、集客するためである。また、特にカミソリ販売は減少し、売場・販促のテコ入れが必要だったからという理由もある。さらに、巨大シェアを持つジレットの交渉力を削ぐためでもある。最後に、ハリーズの持つ顧客データを、売場・販促に活用することにより、販売確率を向上させるためである。
ハリーズ商品の店頭販売が成功した要因は、目立つ売場を確保・作成できたことと、これまで取り逃がしていた中間価格帯商品への需要に応じることができたからである。
ハリーズにとってのメリットは、ネットではリーチできなかった顧客層を獲得できること、ネットだけで購入することに不安だった見込み客の購入が期待できること、ターゲットとの取引開始で信用度が向上したことである。
巨大シェアを持つ企業は、取引先にとって脅威である。よって、ターゲットのように、自社の交渉力を高める施策が必要になるだろう。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊