【753号】世界全体で見れば拡大する音楽のデジタル配信、日本だけなぜ縮小?
by courtesy of Daniel Paxton
◎本日のニュース
1)見出し
Japan Hits a Sour Note on Music Sales
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2)要約
多くの国では、レコード販売は安定しているが、日本では縮小している。CDなどのパッケージ販売だけではなく、デジタル配信も日本では縮小している。
これには、日本では依然デジタル配信よりもパッケージ販売が主体であることが関係している。減少トレンドのパッケージ販売が主体なので、レコード販売市場全体も縮小する。
この背景には、パッケージ販売により価格決定権を維持したいレコード業界の思惑がある。また、世界で拡大するストリーミング配信が、寡占化の進まない日本のレコード業界との交渉で時間が取られ、リリースにまで至らないということも大きく影響している。
またユーザー側では、スマホの普及により、ユーチューブなどを使って無料で音楽を聞く習慣が広がっている。この結果、ダウンロード販売が縮小している。
◎キーセンンスとその翻訳
3)キーとなる英文
Even with the recorded-music business stabilizing in many countries, global music revenue shrank last year. The biggest reason: Japan’s music market, the world’s second largest after the U.S., is in free fall.
4)キーとなる英文の和訳
多くの国で楽曲レコードビジネスが安定しているにも関わらず、世界の音楽販売額は昨年減少した。
その最大の理由は、アメリカに次いで世界第二位の日本の音楽市場が、急激に縮小しているからである。
5)気になる単語・表現
stabilize |
自動詞 |
(容態などが)安定する |
free fall |
名詞 |
(重力の作用だけの)自由落下;(価格の)暴落;(価値の)急激な低下、急落 |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
世界全体のレコード(パッケージ・デジタル)販売は、2013年は減少しました。その最大の要因は、日本のレコード販売が急減したから。その証拠に、日本を除いた場合、ほぼ横ばいになっています。
【世界全体・日本のレコード販売市場(2013年)】
[世界全体]3.9%減少
[日本]17%減少
[日本を除いた世界]0.1%減少
日本の減少率の大きさがわかると思います。日本のレコード販売がここまで縮小した要因は、デジタル配信売上が減少したから。CDなどのパッケージ販売も減少したのですが、これはその他の国でも起こっています。
【日本のレコード販売市場(2013年)】
[デジタル配信]23%減少
[パッケージ]13%減少
日本の音楽デジタル配信市場が縮小したのは、2013年特有の現象ではありません。それは、日本のレコード業界とユーザーに起因する構造的な問題なのです。
【日本の音楽デジタル配信が伸び悩む構造的要因】
[レコード業界1]レコード会社が、より利益率の高いパッケージ販売に力をいれているため
[レコード業界2]レコード業界が寡占化しておらず、ストリーミング配信の契約に時間が取られるから
[ユーザー]スマホを使えば、無料で音楽を聴けるから
レコード業界の要因について。日本のレコード業界は、そもそもデジタル配信に関心が薄く、これがデジタル配信市場が拡大しない大きな要因となっています。それは、デジタル配信よりもパッケージ販売の利益率の方が高いからです。高い利益率の源泉は、CDなどに付いた特典。この特典目当てに、ファンが複数枚購入してくれ、ファンの数が少なくてもそれなりの売上金額を確保できるのです。言ってみれば、高い客単価が期待できるので、集客コストをさほど掛ける必要がなく、その結果利益率が高くなるのです。
好例はAKB48。記事でも紹介されていますが、握手権や総選挙の投票権目当てにファンがCDを複数枚購入してくれる結果、20万人のファンしかいなくても100万枚を売り上げることが可能になります。固定ファン20万人に告知すればいいので、広告宣伝費を削減できるのです。
さらに、パッケージ販売では、レコード会社が価格決定権を保持できるのに対し、デジタル配信では価格決定権が配信会社に移ることになります。レコード会社はこれを嫌がり、デジタル配信には消極的なのです。CD枚数やその種類をコントロールすることで価格決定権を持つことができれば、値下がりを回避でき、高い利益率を維持することができます。パッケージ販売ならば、再販制度によって守られるということも大きく影響しています。
【日本のパッケージ販売の利益率が高い理由】
[1] 複数枚購入によって高い客単価が期待できるので、集客コストを下げることができるから
[2] パッケージ販売では価格決定権を保持でき、値下がりを回避できるから
レコード業界の2つ目の要因は、その業界構造です。アメリカのレコード業界は寡占化されているのに対し、日本では中小のインディーズレーベルが多く、寡占化が進んでいません。
【アメリカと日本のレコード業界対比】
[アメリカ]メジャーレコード会社のシェアは85%以上
[日本]メジャーレコード会社のシェアは36%、65以上の会社が存在
アメリカのレコード業界は寡占化されているので、少ない著作権交渉で品揃え豊富な楽曲を集めることができます。一方の寡占化されていない日本では、豊富な楽曲を集めるには多くのレコード会社と交渉しなければなりません。そのため、デジタル配信サービスの品揃えが制限され、魅力あるサービスが生まれにくくなります。だからこそ日本では、デジタル配信市場が成長しないのです。
特に、消費者に人気のストリーミング配信は、著作権のハードルが更に高くなります。日本のみならず、そもそもメジャーレコード会社はストリーミング配信には消極的です。それは、豊富な旧譜(発売されて時間が立つCDなど)のロイヤリティ収入で収益を上げるビジネスモデルだからです。新譜がプロモーションにコストが掛かるのに対し、旧譜は指名買いが期待できる商品だけに、販促コストがさほど掛からず、新譜よりも利益率は高いのです。しかも、販売枚数・ダウンロード数に比例して、その収益は拡大します。一方、ストリーミング配信は月額固定料金のため、一定の売上金額しか稼げません。よって、ストリーミング配信は、レコード会社にとって魅力的な販売ルートにはならないのです。このストリーミング配信の契約をレコード会社と締結するのは、至難の業。しかも日本の場合は、数多くのレコード会社との契約締結が必要となるので、ストリーミング配信のハードルはさらに高くなります。
ユーザー側にも、デジタル配信が広がらない要因があります。それは、スマホの普及により、無料で音楽を聴く習慣が広がっていることです。記事では、次のような音楽ユーザーが紹介されています。
【無料で音楽を聴くことに慣れた日本の音楽ユーザー】
[22歳大学生男性]以前は月に3000~4000円をCD購入に当てていた。しかし、今ではほとんど購入しない。それは、ユーチューブを使えば無料で聴けるから
[48歳EXILE(エグザイル)ファン女性]EXILEの支援や特典目的でEXILEのCDは購入している。しかし、EXILE以外は買わない。ユーチューブで最新曲を聴き、気に入れば、レンタル店や友人から借りる
スマホが普及する前は、気になる曲の着メロをダウンロードし、気に入れば、シングルやアルバムを購入していました。スマホの広がりにより、着メロのダウンロード販売が大きく減少。さらに、ユーチューブなどを通じて無料で音楽を聴く習慣が広がり、パッケージ購入も減少したのです。これこそが、パッケージ販売・ダウンロード販売双方が減少している、日本の音楽市場の実態と言えるでしょう。さらに、スマホによるユーチューブ試聴が、着メロのみならず、楽曲のダウンロード購入も減少させています。
ただし、日本でもストリーミング配信のニーズは強いようです。ソニーのストリーミング配信サービス・ミュージックアンリミテッド(Music Unlimited)によると、トライアル会員が有料会員に転じる率は、日本が一番高いとのこと。これは、日本の音楽ユーザーの中で、ストリーミング配信ニーズが強いことを物語っています。品揃え豊富なストリーミング配信サービスがあれば、日本のデジタル配信市場は拡大する可能性があるのです。
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《今回のヒントのまとめ》
1) 世界で拡大する音楽のデジタル配信が日本だけで縮小する要因は、レコード業界と音楽ユーザーにある。
2) 日本のレコード会社は、より利益率の高いパッケージ販売に力を入れており、デジタル配信には消極的だからである。特典により複数枚の購入が期待できるパッケージ販売は、集客コストを抑えることができる。また、パッケージ販売では価格決定権を保持でき、値下がりを回避できる。
3) 日本のレコード業界が寡占化されていないために、著作権交渉に時間が掛かることも、デジタル配信が進まない要因である。特に、旧譜の収益に依存するメジャーレコード会社の場合は、売上が一定のストリーミング配信には消極的である。
4) スマホの普及により、音楽ユーザーに無料で音楽を聴く習慣が広がったことも、デジタル配信が伸びない要因となる。フィーチャーフォンの着メロ売上が急減したことも、大きく影響している。
5) ただし、日本の音楽ユーザーの中で、ストリーミング配信へのニーズは高い。品揃え豊富なストリーミング配信が提供されれば、デジタル配信売上は大きく拡大するだろう。
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ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
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編集後記
今回取り上げた記事には、AKB48の画像が最上段に掲載されていました。
パッケージ販売に依存する日本の音楽市場の象徴なのでしょうね。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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