【756号】ウォール街出身者が広告業界で重宝される理由とは？

“Online Stock Trades – Analysis” by Malcolm Espinosa

◎本日のニュース

1)見出し　
Why Trade Bonds When You Can Trade Ads?

毎週火曜・土曜の18時、メルマガにて配信。

（サイトへの掲載は、翌日以降です。）

ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、

メルマガの登録をお願いします。（もちろん無料です。）

2)要約

金融業界で働く人にとっての最高の転職先が、ヘッジファンド幹部から広告業界に変わろうとしている。というのも、金融業界のスキルへのニーズが広告業界で上昇しているからである。

ネット広告では、広告主と広告スペースの自動マッチングが進んでいる。アルゴリズムを使って最適な広告スペースを最適な価格で購入するのだが、広告主の代わりにこれを行うのが広告代理店。この技術に、金融トレーディングの技術が用いられる。

実際、とあるネット広告代理店では、データ分析部門の約30％が金融出身者であり、数も3倍に増加しているという。トレーダー兼ITエンジニアへの需要が特に高まっているという。

◎キーセンンスとその翻訳

3）キーとなる英文

Based in the former offices of a hedge fund, MediaCrossing’s primary business isn’t all that different from his old Wall Street outfit.

4）キーとなる英文の和訳

ヘッジファンドの前職のオフィスに拠点を置いていながら、メディアクロッシングの主要事業は、出身元であるウォール・ストリートの組織とは全く異なる。

5）気になる単語・表現

former	形容詞	前の；昔の
primary	形容詞	主要な；第一位の；最も重要な
outfit	名詞	一行、団体、組織；衣装一式

◎記事から読み取った今日のヒント

6)ビジネスのヒント

ウォール・ストリート（金融業界）出身者が広告業界で重宝されているのは、広告業界で必要とされているスキルに変化があるからであり、その背景には広告業界の変化があります。その変化は、ネット広告で起こっています。一言で言えば、広告代理業務の自動化がその変化にあたります。

広告代理業務とは、広告主と媒体をマッチングさせる仕事。従来は、人手で行われていました。広告代理店が、媒体の広告スペースを大量に仕入れ、それを企業に販売。企業側は、テレビや新聞などの媒体に広告を出したい場合、広告代理店の担当者に電話をしていたのです。

この代理業務が、人手から自動化に。特に、コンピューター取引所でのオークション売買が普及しています。普及を示すデータは以下の通り。

【ネット広告で広がるオークション取引】

［2013年実績］全ネット広告の約52％

［2017年予測］80％まで増加

取引所で売買される広告スペースは、まるで株式市場で取引される株式と同じ。そこで必要とされるのは、トレーディング技術とITエンジニアスキル。ITエンジニアスキルは、アルゴリズム取引の際に必要とされます。広告スペースの取引所でも、同様の技術が必要とされるので、金融業界出身者が重宝されるわけです。

記事では、金融業界出身者が創業した広告代理店・メディアクロッシング社（MediaCrossing Inc.）が取り上げられています。この企業は、特許を持つコンピューターシステムとアルゴリズムを使って、クライアントである広告主の代わりに、最適な広告スペースを最適な価格で探します。金融のトレーディングと同様、クライアントの代わりに、広告スペースの売買リスクを負い、安く仕入れた広告スペースを高く売ることで儲けるビジネスモデル。売りにくい広告スペースを媒体の代わりに売るというサービスも行っています。

広告業界での金融業界出身者ニーズの増加は、広告業大手のWPP社の広告購入子会社・グループMの実績が物語っています。急成長するデータ分析部門の約30％は、金融業界出身者。過去3年間で部門スタッフは、3倍の約60人にまで増加。データ分析部門の求人募集に応募する7割は、金融業界出身者が占めています。金融業界出身者が広告業界に群がる理由をまとめると、次のようになります。

【広告業界に転職する金融業界出身者が増加する理由】

［1］金融業よりも広告業でITイノベーションが大きく遅れ、自分のスキルへのニーズの高まりを今後期待できるから

［2］金融業界出身者の給与が上昇しているから

このようにネット広告では、広告はクリエイティブ（芸術に近い）からグーグルが取り扱うような対象物に変化しているとも捉えることができます。

【ネット広告における広告に対する考えの変化】

［従来］芸術に近いリエイティブなモノ

［現在］グーグルが取り扱うようなサイトに近い対象物

考えのこのような変化があるからこそ、金融業界でトレーダーでありエンジニアであった人へのニーズが高まっているのです。

このような変化により危惧されることもあります。それは、広告単価の下落です。単価下落の要因は、次の通り。

【広告単価が下落する理由】

［1］ネット上の広告スペースの急増（供給増加）

［2］業務の自動化によるコスト削減

1は、ソーシャルメディア普及が後押しします。2は、自動化により数字で広告スペース・単価を決めた方が、より効果的だからです。インプレッション数・クリック数などの数字により広告効果が測定できる方が、従来の丼勘定よりもずっと効果測定が容易になります。逆に、数字による測定が可能になったことで、広告主がよりシビアになったとも言えます。

ネット広告取引（マッチング）が数値化されたことが、数字を取り扱う金融業界出身者のニーズを高めたとすれば、他の業界でも数値化が起これば、同様の変化が起こるかもしれません。単に求められるスキルが変わるだけではなく、数値化により単価下落が起こっていることも注目に値します。

MediaCrossing Inc. mediacrossing.com/

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

《今回のヒントのまとめ》

(1) 金融業界出身者の広告業界への転職が増えているのは、ネット広告においてオークション取引が増え、トレーディング技術とITエンジニアリング技術が必要とされているから。

(2) この背景には、ソーシャルメディア普及による広告スペースの増加がある。広告代理業務の自動化とともに、広告単価下落を招く結果となった。

(3) このように、数値化が進み広告効果が計測しやすくなったネット広告において、広告はクリエイティブなモノから数学的なモノへと変化している。

(4) 他の業界でも、ネット利用による数値化が進めば、広告単価同様単価下落が進む可能性はあるだろう。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊