【992号】化粧品小売のウルタビューティーが美容サロンを併設する理由
◎本日のニュース
1)見出し
A Beauty Retailer That Knows What You Want
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2)要約
化粧品チェーン大手のウルタビューティーは、閉鎖店舗が増える小売業界において、出店を加速している。その最大の成功要因は、大衆ブランドと高級ブランド双方を扱うという戦略である。
これにより、客層が増えるだけではなく、大衆ブランドユーザーが高級ブランドを手に取るというマスミグレーションが生じる。これは、高級ブランドにとって、見込み客の獲得につながる。
また、大部分の商品が試せ、美容サロンを併設することは、店舗での滞在時間が長くなる効果をもたらす。これは客単価を引き上げる。これら体験型サービスは、ネット通販にはない買物の楽しさを提供する。これにより、客数も伸びている。
3)キーとなる英文
In many subtle ways, Ulta offers a shopping experience that gets how women wear and, as importantly, play with beauty products.
4)キーとなる英文の和訳
巧妙な方法を多く用いて、ウルタは買物体験を提供することによって、女性がどのように着こなしているか、もっと重要なことだが、美容品をどのように使っているかについて、知ることができる。
5)気になる単語・表現
story | 名詞 | 店 |
strip mall | 名詞 | メイン道路に沿ったモール |
lag | 自動詞 | 遅れる |
lagging | 形容詞 | ぐずぐずする |
draw in | 他動詞句 | ~を引き入れる;(人)を惹きつける |
subtle | 形容詞 | 微妙な;器用な;巧妙な |
linger | 自動詞 | ぐずぐずする;ゆっくり時間を掛けて楽しむ |
stay-at-home | 形容詞 | 専業主婦の |
fixture | 名詞 | 固定された物 |
lively | 形容詞 | 強烈な;元気な、活発な;鋭い |
replenish | 他動詞 | ~を再び満たす;~を新しく補給する |
fray | ||
harry | 他動詞 | ~を苦しめる;~に損害を与える |
contention | 名詞 | 争い、議論 |
(今回ピックアップ英単語)
【subtle】
(英英)
- not very noticeable or obvious 「微妙な、とらえたがい;理解し難い」
- behaving in a clever way, and using indirect methods, in order to achieve something 「かすかな、ほのかな」
- organized in a clever way 「器用な、巧妙な」
- good at noticing and understanding things 「鋭敏な、敏感な、繊細な」
6)ビジネスのヒント
今回取り上げるのは、化粧品小売大手のウルタビューティー。化粧品専門チェーンですが、化粧品だけではなくヘアドライヤーなどの美容関連商品、さらに美容サロンや洗顔サービス・まつ毛メンテナンスなどのサービスも提供しています。
このウルタの業績がすこぶるいいようです。そのため、閉鎖店舗が増える小売業界の中で、大規模出店を行う珍しい存在として捉えられています。
【ウルタの直近四半期業績】
- 売上:2%増、10億7000万ドル
- 既存店上:売上15%以上のプラス、客数11%プラス、客単価2%増
※既存店売上はネット通販売上を含む
【ウルタの店舗拡大】
今年100店舗出店予定(夏までに40店舗)→全部で970店以上に
ま ずは業績から。売上増の主因は店舗増ですが、既存店売上も大きく伸ばしています。内訳はわかりませんが、恐らくネット通販売上が相当伸びているのでしょ う。驚くべきは、客数のみならず、客単価も伸びていること。絶好調と言っても過言ではなりません。だからこそ、拡大路線を突き進んでいます。
これほど業績好調なウルタ。その特徴をまとめると、次のようになります。
【業績好調をもたらしたウルタの特徴】
- 大衆・高級ブランド双方を販売することで、客層が広い→客数増、売上増
- 家賃が低く、駐車しやすいストリップモールに出店→低い固定費、客数増
- 大部分の商品を試せて、来店自体が楽しい→客数増、客単価増
- 美容サロン併設など美容サービスを提供→安定した客数
1について、通常ドラッグストアで販売されている大衆ブランドと、直営店や百貨店で販売されている高級ブランド双方を取り扱っています。これにより、客数が幅広くなり、母と娘の来店も多いようです。これは客数にプラスに働きます。
また、有名ブロガーによる口コミ人気で、高級ブランドの化粧品は、そもそも売れ行きが好調なカテゴリー。よって、高級ブランドを扱うウルタの業績上昇に寄与していることになります。
2 について、主な出店先は、家賃が比較的安いストリップモール。固定費を低下させ、収益性の向上に寄与します。ちなみに、ストリップモールとは、道路沿いに 商店が集積したモールのことで、日本で言えば商店街に近いかもしれません。対称的なのが、SCなどの屋内型モール。ストリップモールは、店舗を簡単に見つ けることができ、店舗前に駐車できるので、気軽に来店できます。一方、屋内型モールは、どこに目当てのショップがあるのか、地図で調べなければなりませ ん。駐車場も専用駐車場になるので、ショップまでの距離が幾分あります。ストリップモールの来店のしやすさは、客数にプラスに働きます。
3について、化粧品の購入前の試用は、高級ブランドならありますが、大衆ブランドではあまりないようです。しかし、ウルタでは、高級ブランド・大衆ブランドとも試せます。これが、来店自体を楽しいものにさせ、集客・客数にプラスに働きます。
商品を試すという購入前の体験は、店舗での滞在時間を長くする効果を持ちます。実際に、来店客の三分の二が15分以上、20%が30分以上滞在しています。これは、購入点数・客単価の向上に寄与します。
4 について、体験型サービスは、商品の購入前試用だけではありません。全店(恐らく)で美容サロンを併設し、一部の店舗では洗顔サービスやまつ毛ワックス サービスも提供しています。もちろん、このようなサービスの提供は、滞在時間の長期化・客単価の向上に寄与します。しかし、それ以上に重要なのは、定期的 な来店が期待できるということです。つまり、客数がある程度安定することで、天候などの外部環境の変化への耐性が高まります。これはもちろん、客数増をも たらします。
ただし、そもそも化粧品小売自体は、競争の激しい業界。ウルタの競合業態をまとめると、次のようになります。
【ウルタの競争業態】
- ドラッグストア:美容品売場を拡大
- ブランドの直営店
- 通販サイト:美容関連ブロガーや美容動画の人気がプラスに
- 高級化粧品チェーン(セフォラ、スペースNK,ブルーマーキュリー)
- 百貨店
これら競合業態との差別化要素は、次の通り。
【ウルタの差別化】
- 大衆・高級ブランド双方の販売(ドラッグストア・直営店・高級チェーン・百貨店)
- 一部高級ブランドを独占販売(直営店・高級チェーン・百貨店)
- 美容サロンなどサービスの提供(ネット通販)
- 購入前の試用可能(ドラッグストア・ネット通販)
- 控えめな接客(百貨店)
- 直接値引きに依存しない販促(ドラッグストア)
※カッコ内は差別化対象
1 について、大衆・高級ブランド双方を扱うことで、客層を広げるだけではなく、ワンストップショッピングによる利便性を向上させることができます。ただし、 大衆ブランドとの併売を嫌がる高級ブランドの意向を汲み取り、売場を完全に分けています。また、ウルタで扱う二大高級ブランドのクリニークとランコムは、 専用の大きな売場を持ちます。このように、高級ブランドのブランド価値を損なわない売場を作ることで、高級ブランドの仕入れ・販売を可能にしているので す。
2について、エスティーローダー社などは、ウルタに独占販売の商品を提供しています。これは、高級ブランドを扱う業態との差別化になります。
3について、先述した通り、美容サロンなどのサービスを提供することで、集客の安定化のみならず、実店舗を持たないネット通販との差別化になります。
4について、高級ブランドのみならず、大衆ブランドも購入前に試用できることは、試用ができないドラッグストアとの差別化です。
5について、接客はあくまで控えめで、必要な時のみ説明するだけです。百貨店のように、店員がつきまとったり、監視(!)したりすることはありません。
5 について、販促では直接的な値引きを行わず、新商品の試し買いや複数の商品購入で値引きするだけ。これにより、値引きを嫌うメーカーの協力を引き出すこと ができます。一方で、ロイヤルティプログラムでは、ポイントを貯めれば現金値引きするなど、お得感も出しています。ちなみに、セフォラでは、ポイントを貯 めても試供品と交換できるだけのようです。さらに、ポイントカードから抽出される購入履歴から、会員が好きそうな商品サンプルを提供し、「いつか試供品が もらえるかもしれない」という楽しみを会員に提供しています。これも、直接値引きに頼らない販促の一つとなります。値引き販売が主流のドラッグストアとの 差別化になっています。
WSJの記事タイトルは、「顧客の欲しいものを知っている化粧品小売」なので、このロイヤル ティプログラムでは、提供した試供品を実際に購入したかどうかで、顧客の好みを蓄積していることが想像できます。ウルタの本当の強さは、商品の試用や美容 サービスを提供することで、滞在時間を長くし、その中で顧客のニーズを読み取っているということかもしれません。簡単に言えば、クリックと実際の購入から 顧客の好みを読み取る通販サイトと同じことを、実店舗でしているのです。だから、苦戦する実店舗型小売企業の中で、ネット通販市場のような成長をしている のかもしれません。
今回の記事の注目点は、次の3点。
【注目点】
- 実店舗は来店・買い物を楽しくさせる体験を提供することで、ネット通販に勝つことができる
- 固定費の高い実店舗ビジネスでは、いかにうまく集客するかが重要
- 来店したくない理由を排除することで、客数を増やせる
1について、モノの販売では、利便性に優るネット通販に勝つことは難しいでしょう。ならば、体験型サービスを提供することで、実店舗小売の持つ強みを活かせばいい。これは、コト消費の拡大トレンドとも合致します。
2について、ネット通販とは異なり固定費の高い実店舗ビジネスでは、集客が販売のスタート地点。その点ウルタは、定期来店が期待できる美容サービスを提供することで、集客を安定化させています。ネット通販市場の拡大は、余計に集客を難しくさせているという一面もあります。
3について、消費者から見た実店舗小売の欠点は、望まない接客があること。これが、逆に来店しにくくさせている一面もあります。ウルタはこれを排除。来店ハードルのみならず、顧客の望まないコトを排除することで、集客・客数を増やすことができるのです。
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《今回のヒントのまとめ》
- 苦戦する実店舗型小売業界の中で、ウルタが好業績で店舗拡大を進めるのは、客数・客単価をうまく引き上げているからである。
- 客 数を伸ばすために、大衆・高級ブランド双方を扱うことで客数を広げ、駐車しやすいストリップモールに出店することで来店ハードルを下げている。また、購入 前の試用で来店を楽しくすることで、気軽に来店しやすくし、定期的来店が期待できる美容サービスを提供することで、客数の安定化を図っている。
- 客単価を伸ばすためには、商品の試用や美容サービスなど体験型サービスを提供することで、店舗滞在時間を伸ばしている。また、バンドル販売などの販促も、客単価向上に寄与する。
- 競争の激しい化粧品小売の中で差別化するために、大衆・高級ブランド双方の販売、一部高級ブランドの独占販売、美容サロンなど体験型サービス、大衆ブランドの購入前試用、控えめな接客、値引きに依存しない購入が楽しくなるロイヤルティプログラムを提供している。
- まるで通販サイトのように、ロイヤルティプログラムが持つ試供品データと購入履歴から、顧客の好み・ニーズを把握していることが、ウルタの本当の強みではないか。
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ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
7)おすすめ商品・サービス
◎最近見つけた気になるもの
まだ飲んでませんが、キリンビールの株主優待で各地の一番搾りセットを頂きました。
これはもう飲み比べなくてはなりません。
そして、また新たなローカル一番搾りが発売されれば、飲みたくなります。
気がつけば、一番絞りユーザーになっていたりして。
一番搾りだけではなく、NBのローカル商品投入は、食品業界のブームのようですね。
◎ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ英単語
WSJメルマガを始めてから、7年経ちました。
この7年間でわかったことがあります。
読む上で知っておくべき単語さえわかれば、
大まかな内容はわかるということ。
備忘録の意味でも、調べた単語をサイト上にアップしています。
今後、メルマガとしてスピンアウトする予定にしています。
◎Winecarte 簡単ワインの選び方
ワインカルテを作る時にいつも感じるのは、
ワインの情報を探すのが大変ということ。
公式サイト・通販サイトをいくつかあたって、
作っています。
編集後記
この記事により、ウルタに行きたくなりました。
日本でも、伊勢丹など百貨店が化粧品売場のスピンアウト(外部出店)を進めています。
化粧品は価格だけではなく効果も重視されるので、まだまだ拡大可能なマーケットではないでしょうか。
だからこそ、百貨店などが新たに参入するのでしょう。
高尾亮太朗のツイッター⇒ twitter.com/ryotarotakao
高尾亮太朗の公式サイト⇒ ryotarotakao.com
高尾亮太朗のTubmlr⇒ ryotarotakao.tumblr.com
高尾亮太朗のGoogle+⇒ gplus.to/ryotarotakao
高尾亮太朗のPinterest⇒ pinterest.com/ryotarotakao/
今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
感謝・感謝・感謝です!
メルマガ相互紹介を希望されるメルマガ執筆者様は、ご連絡お願いします。
私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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