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【1097号】ネット通販にあまり力を入れないディスカウントのTJXが好業績な理由とは?

 TJ Max

 

◎本日のニュース

1)見出し

How to Survive the Retail Crisis: A Master Class from T.J. Maxx

 

 

毎週火曜・土曜の18時、メルマガにて配信。

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2)要約

大量閉店に追い込まれるなど小売業界全体が危機的状況の中、有名ブランド品のディスカウント販売のTJX社は、このトレンドから免れている。その一番の理由は、機敏な仕入力である。

 

また、バーゲン価格で短期間で売り切るために、単品の仕入れ量を絞り込んでいる。そのため、過剰在庫になる恐れは小さく、逆に売場には目新しい商品が並び、集客に寄与する。

 

一方、他小売チェーンが投資を拡大するネット通販には、あまり力を入れない。低価格ゆえに、ユーザーが求める送料無料・返品無料に応えられないからである。

 

3)キーとなる英文

Traditional retailers are in crisis, damaged by rapidly shifting consumer tastes, technological change and cut-throat price competition. And then there’s TJX Cos., which is defying gravity with the simple idea that under the right circumstances people still like to shop in stores.

 

4)キーとなる英文の和訳

従来型小売が危機的状況に陥る要因は、急速に変化する消費者ニーズやITの発展、激しい価格競争である。

一方でTJX社がこのトレンドから逃れているのは、シンプルな考え方ゆえである。

それは、正しい環境さえ整えば、消費者は実店舗での購入をまだ好んでいるということである。

 

5)気になる単語・表現

 

instinct 名詞 生まれながらの才能;天性;直感
mechant 名詞 商人
undergo 他動詞 ~を経験する
intensive 形容詞 短期集中的な
mantra 名詞 スローガン
wed 他動詞 ~を結びつける
underpin 他動詞 ~を支持する;~を下から支える
agility 名詞 軽快さ
currently 副詞 現在(のところ)
phobic 名詞 恐怖症

 

(特に覚えておきたい単語)

【undergo】

experience something, especially a change or something unpleasant

(コメント)

「不愉快なこと」「苦しいこと」を経験する時に使う。

 

6)ビジネスのヒント

最近、苦境にあえぐ小売業界を取り上げる事が多いのですが、その要因は

  1. ネット通販市場(≒アマゾン)への顧客の流出
  2. 価格競争の激化(≒消費者の低価格志向の高まり

の2つに大別できるでしょうか。

 

今回取り上げる有名ブランド品のディスカウントで有名なTJX社(屋号はTJマックスやマーシャルズ)も、この影響からは免れません。しかし、閉店に追い込まれるどころか、既存店売上高が拡大し、店舗を増やしています。しかも、他小売チェーンとは異なり、ネット通販へはあまり注力していません。あくまで実店舗での売上増が、TJX社の成長を支えています。不思議とは思いませんか?その理由は至ってシンプル。仕入主要・販売手法に工夫を凝らしているからです。

 

【TJX社が危機的状況の小売業界の中で成長を続ける理由】

  1. バイヤーの能力・権限が強いために、売れる商材をすばやく仕入れられるため
  2. 仕入れから店頭での販売まですばやく、売り逃しが少ないから
  3. 有名ブランド品を限定数しかバーゲン価格で販売しないため、顧客に枯渇感があるため。
  4. 売場に宝探しのような楽しさがあるから。

 

1について、まずは仕入力の高さです。バイヤー教育には力を入れ、TJX大学という短期集中型のバイヤープログラムがあります。このプログラムを通じて、処分品の価値を見分ける目利きを鍛えます。具体的には、ブランド力・ファッション性・品質・価格の各項目で4段階評価して、総合格付を行います。

 

また、バイヤーは数百万ドルの仕入代金を管理し、スポットで即座に仕入れる権限をも持ちます。これにより、百貨店では仕入の商人に数週間掛かるところ、TJX社はバイヤーが即断即決できるのです。鮮度が命のファッション品では、この即決力は大きなアドバンテージになります。

 

2について、さらにTJX社は、仕入から売場に並べるまでもすばやい。売場にそのまま並べられるラックの状態で商品が店舗に届きます。だから、売場に並べるのは、そのラックを店頭に出すだけ。この結果、バックヤードで眠る期間が最小化され、ビジネスチャンスを逃す恐れが小さくなります。

 

3について、さらに売れる商品を売れるだけしか仕入れません。例えば、色・サイズが豊富なアパレル品の場合、特定の色・特定のサイズしか仕入れない。それをバーゲン価格で販売するので、売れ残りリスクはかなり小さくなります。仮に、店頭に並べて1ヶ月しても売れなかった場合は、値下げして処分棚に移動。これを1回か2回すれば、大部分は売り切れます。

 

この仕組みだから、店舗は週に数回仕入れなければならず、その結果売場は常に新鮮な状態に変わります。この状況は、顧客から見れば、欲しいモノが見つかれば、即買わない次にはないという事になりかねません。この枯渇感が、顧客の購買を促し、売り切れやすくします。

 

4について、TJマックス(TJX傘下)の売場は、ブランド毎・サイズ毎に分かれているのではなく、違うブランド・違うサイズ・違う色の商品が隣に並んでいます。つまり、来店客は、目当ての商品がないか一つ一つ調べなければならないのです。これがまるで宝探しのようであり、買い物に楽しさの要素を加えているのです。ちなみに、ネット通販では、検索をすれば目当ての商品があるかどうか一発でわかるので、このような楽しさは生まれません。利便性とは真逆の要素ですが、利便性ではネットに敵わないという割り切りが、宝探しのような”雑多”な売場を作り、集客に寄与しているのでしょう。

 

このような売れる要素のあるTJXは、業績が沈む百貨店とは対照的です。

 

【TJXと百貨店の比較】

(仕入れ)

TJX→バイヤーが仕入れ品・数量を即決できる。仕入先は1万8千社以上に渡る。

百貨店→上司の許可が必要なため、数週間かかる。仕入先は限定的。

(売場)

TJX→売場を自由に構成でき、週に数回変更する。

百貨店→導入ブランドに決定権があり、自由に変更できない。

(購入確率)

TJX→来店時には必ず何かを購入してくれる。

百貨店→来店の1/3しか購入してくれない。

(顧客の平均家計所得)

TJX→約72000ドル

百貨店→ほぼ同じ

 

最後の平均家計所得には注目で、TJXと百貨店の顧客層がほぼ同じであることがわかります。これが意味するところは、百貨店を従来利用していた層が、TJXにシフトしているということです。実際記事でも、リタイアした女性シニアが、百貨店の利用をやめ、TJXに切り替えたことが紹介されています。

 

このように実店舗の売上が好調なTJXですが、ネット通販を行っていないわけではありません。通販サイトの開設は早い方で、2004年。しかし、1年後には閉鎖しています。2013年に再開して、今に到っています。再開したものの、あまりお金は掛けていない模様で、実店舗をメインに商売を行っているのが現状です。

 

【TJXがネット通販にあまり力を入れない理由】

  1. 単価が低いため、送料・送料の無料などの消費者が求めるサービスのコスト負担に耐えられないため。
  2. ネット掲載を許可しないブランドがあり、魅力的な品揃えができないため。
  3. 店舗とのカニバリが起こるリスクがあるため。
  4. 物流システムなどビジネスの仕組みが、店舗販売向けに設計されているため。

 

1について、これは以前メルマガで紹介したザラとは真逆になります。ザラの場合は、ファストファッション業界の中では高めの単価のために、ネット通販で送料無料・返品無料などのサービスを行っても、コスト負担に耐えることができます。一方のTJXはその逆で、単価が低いために、消費者が求めるサービスを実施すると、利益率が大きく低下してしまいます。それならば、実店舗で販売した方がいいということになります。

 

2について、これはディスカウンターだからこその理由になります。処分品をディスカウンターに流してくれるのは、正規ルートの販売に支障が出ないからです。これがネットに乗れば、価格が丸見えになり、正規価格で買った顧客の離反を招きかねません。このような理由から、多くの有名ブランドが、オフプライス(処分価格)でのネット販売を許可しないのです。その結果、通販サイトの品揃えは乏しくなり、ビジネスとして魅力が薄れることになります。

 

3について、実店舗と同じ商品をネットで売れば、自社内で価格競争が生じかねません。同じ価格にしたとしても、実店舗と競合することになり、売上増には寄与しません。メインは実店舗なので、通販サイトでは実店舗で販売しない商品を掲載しており、この結果品揃えが乏しくなりかねません。

 

4について、実店舗メインのTJXでは、物流システムなどビジネスの仕組みが店舗販売向けに設計されています。よって、顧客への宅配に最適化された仕組みを持つネット通販専業よりも、コスト構造上不利になります。これも、ネットに力を入れない大きな理由です。

 

これらの結果、TJXのネット販売比率は、全売上に対したったの1%にしか過ぎません。ちなみに、メイシーズは約18%。TJXのネット通販比率の低さ、逆に実店舗の強さがわかるかと思います。

 

このように実店舗をメインに業績が向上するTJXですが、オフプライスチェーンにも他小売業界同様に逆風が吹いています。

 

【オフプライス業界に吹く逆風】

  1. デザイナーブランドは、ブランドイメージ維持のため、オフプライスチェーンへの出荷を抑制している。
  2. 百貨店は独自のオフプライスブランドを展開している。

 

1・2とも、仕入れへの逆風になります。1について、ラルフ・ローレンなど有名デザイナーブランドは、ブランドイメージ維持のために、オフプライスチェーンへの出荷を抑制しています。記事には明記されていませんが、恐らく自社運営のアウトレット店での販売にシフトしているのでしょう。他ブランド品と雑多に売場に並ぶオフプライスチェーンよりも、自社ブランドで統一されたアウトレット店の方が、ブランドイメージを維持しやすいからです。

 

2について、百貨店は消費者の節約志向・低価格志向に合わせて、独自のオフプライスブランドを展開しています。例えば、メイシーズのメイシーズ・バックステージや、サックスのサックス・オフ・フィフス、ノードストロームのノードストローム・ラックなどです。この結果、TJXには百貨店からの商品が流れにくくなります。

 

しかし、TJXはこのような逆風を逆にチャンスと捉えているようです。というのも、大元の要因である消費のネットシフト・競争激化により、大量の売れ残り品が発生し、潜在的に仕入れ品が増えるからです。実際、売上確保のために、TJX向けの商品をわざわざ製造する企業・ブランドもあるぐらいです。

 

【注目点】

  1. ネットに利便性で負ける実店舗の強みは、買い物の楽しさ提供。
  2. スピードは企業の大きな強み。

 

1について、実店舗は、利便性では検索できるネットに敵いません。コンビニという業態もありますが、これも品揃えを高頻度で切り替えることで、新鮮さ・楽しさを提供している点は成長の大きな要素。TJXの場合は、仕入れを限定的・高頻度で行うことで、新鮮な楽しい売場を作っています。また、商品の色・サイズが限定されていることにより、目当ての商品を探す楽しさも提供しています。この楽しさは、検索一発で商品を探せるネットにはない強みです。

 

2について、TJXの最大の強みは、バイヤーの目利きとスピード。特に、仕入れ決定のスピードは、低迷する百貨店との大きな違いです。さらに、仕入れから売場に並べるまでも、速いこと。売り逃しを減らす効果があります。これは小売業界だけのことではなく、伸びる企業はどこも他社よりもスピーディーな動きをしているものです。

 

日本にはTJXのような小売チェーンは存在しません。強いて言えば、一部有名ブランドも扱うディスカウント大手のドン・キホーテでしょうか。ドン・キホーテも、圧縮陳列などにより、宝探しのような楽しい売場を提供しています。実店舗小売には、買い物を楽しめるコトが求められているのでしょうか。

 

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《今回のヒントのまとめ》

  1. TJXが苦戦する小売業界の中で成長するのは、バイヤーの目利き・スピードが優れているからである。そのために、バイヤー教育に大きな投資をしている。
  2. また、仕入れから売場に陳列するまでの早く、このスピードゆえに売り逃しを回避している。
  3. 仕入れが限定的・高頻度なことも、来店客に枯渇感と新鮮さを与え、販売増・来店増に寄与している。
  4. ネット通販に力を入れないのは、低い単価ゆえにネット通販に求められるコスト負担に耐えられないからである。また、メインの店舗とのカニバリの恐れがあることも影響する。
  5. TJXの強みは、実店舗の強みである買い物の楽しさを提供していることである。また、仕入れの目利き・スピードも見逃せない。

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(サイトへの掲載は、翌日以降です。)

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7)おすすめ商品・サービス

◎最近見つけた気になるもの

酒類規制の強化により、ビールの店頭価格が上昇しています。

値上げ後から買ったことがありませんが、第三でもケースで2500円前後はなかなか見当たらないみたい。

これでは、ますます焼酎シフトが自分の中で進みそうです。

 

そんな中で見つけたのが、ビールのふるさと納税。

こちらも規制が強化されましたが、まだまだ1万円で1ケースの記念品(?)は残っているようです。

 

泉佐野市さんは、ビール以外でも充実しているから、注目です。

 

編集後記

スマホがついにご臨終のようです。

気がつけば、バッテリーがゼロになっており、困りました。

グーグル検索しても、途中で落ちることが頻出。

さて、次はどの機種にしようかしら。

 

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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。

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