【732号】UPSによるクリスマス配送の遅延が示す、ビッグデータ分析の弱点と可能性

by courtesy of zyphbear

◎本日のニュース

1)見出し　
Why Big Data Failed to Prevent Christmas Package Delays

2)要約

企業によるビッグデータ分析への支出は、年間50億ドルにも上る。しかし、販促方法や天候が変われば、その予測の精度も大きく落ちることになる。これが判明したのは、消費者の直前注文の急増や天候の悪化により、クリスマスプレゼントの配送に大規模な遅延が起こったからである。

遅延の原因は、直前の注文が予想を上回ることで需要が急増したとともに、天候の悪化により供給能力が低下したからである。消費者のセンチメントを、SNS上の会話などから分析しているが、この需要予測の未熟さが露呈された。

解決方法は、予想外の需要急増に備えて、余分な供給能力を持つことであるが、投資効率が落ちるリスクがある。また、事前注文をさせるように、消費者を誘導させる方法もある。

◎キーセンンスとその翻訳

3）キーとなる英文

But experts say new behavior patterns spurred by retailer promotions and bad weather across the U.S. made it nearly impossible for analytics tools to predict the last minute scramble for Christmas gifts that left retailers and shippers red-faced with embarrassment and consumers red-faced with anger.

4）キーとなる英文の和訳

しかし、専門家によると、小売店の販促に影響された新しい行動パターンや、全米で見られた悪天候により、分析ツールが、最後に起こったクリスマスプレゼント配送の混乱を予想することは、ほとんど不可能であるという。

混乱により、小売店や運送店は謝罪で顔を赤らめる一方、消費者は怒りで顔を真っ赤にさせた。

5）気になる単語・表現

spur	他動詞	～をせきたてる、～にはっぱをかける；～を促す
scramble	名詞	大慌て、あせること；よじ登ること
enmbarrassment	名詞	当惑；困惑

◎記事から読み取った今日のヒント

6)ビジネスのヒント

今年のクリスマス商戦は、本当に大変だったようです。それもそのはず、クリスマスプレゼントがクリスマス当日に間に合わないという事態が起こったから。その原因は、事前の需要予測が大きく外れたからに他なりません。そして、その需要予測は、　ビッグデータ分析により作られたものであり、今回の配送遅延で、ビッグデータ分析の弱点が露呈されたことになります。

そもそもビッグデータ分析に企業が大金を投じるのは、膨大なデータ量（だから「ビッグ」だと言われる）を分析することにより、将来を予測できるからに他なりません。つまり、将来は過去の延長線上という考えが、その根底にあるのです。その根底が違えば、いくら大量のデータを適切に分析したとしても、将来の予測は全く的外れになり兼ねません。

クリスマス商戦における小売店・運送店の予測と現実をまとめると、次のようになります。

【クリスマス商戦における小売店・運送店の予測と現実】

［小売店の予測］クリスマス直前のメール販促による売上はそれほど大きくならない

［小売店の現実］クリスマス直前の数日間で売上は10～15％増

［運送店の予測］クリスマス商戦全体で平均8％増

［運送店の現実］クリスマス直前の週末におけるネット通販売上は、37％増。航空便の利用は、予想をはるかに上回った。

小売店が直前のメール販促を行ったのは、売上が予算を下回ったからでしょう。予算達成のために、もう少し数字が欲しかったので、大盤振る舞いの値下げを行ったのかもしれません。これに消費者が思いもよらぬ反応をしたことになります。通常程度の注文なら対応できたクリスマス当日までの配送が、予想以上の注文により不可能になったのです。

また、アマゾンの配送料無料プログラム・プライムサービスの受付期間が、22日までだったことも、他通販サイトに大きな影響を及ぼします。クリスマスプレゼントは、22日までに注文すればいいと考える消費者が増えれば、22日の注文が急増することになります。実際、12月の第三週だけで、プライムサービスは100万人の新会員を獲得しました。アマゾンプライムサービスの影響が、ネット通販全体に及び、直前注文の急増を生み出したことになります。

この結果、直前の需要は予測を上回るばかりか、供給能力も上回り、クリスマスまでの配送がかなり厳しくなります。

さらに、天候悪化という事態が起こります。この結果、供給能力は縮小。予想以上の需要に対処することができず、配送遅延を招きます。

つまり、ビッグデータ分析は、販促内容の変化（直前まで無料配送を提供、直前の販促を実施）や天候の変化に対して無力であったために、配送遅延を引き起こしたのです。過去の延長線上に未来がなければ、過去のデータをいくら分析しても、正確な予想はできないのです。

ならば、需要急変に対してどう対処すればいいのか。その方法は、以下の通りです。

【需要急変への対処方法】

［供給能力の拡大］余分は飛行機や人員を確保する→投資効率（ROE）の低下リスクあり

［需要の平準化］事前の価格を下げ、直前の価格を引き上げることで、事前注文に誘導→競合が直前値下げを行えば、売上減少のリスクあり

需要急増に対処するには、供給能力を高めるしかありません。その方法は、予想される需要量に対処できる飛行機や人員を、事前に確保することです。しかし、この予想が外れれば、その投資は全く無駄となり、ROEが低下するリスクがあります。

一方、需要急増を防ぎ、需要を平準化するという方法もあります。今年のような直前注文をできるだけ減らすために、直前の価格を引き上げ、事前注文を促す方法です。日本のおせちやクリスマスケーキなどでよくある、早割に当たります。しかし、競合企業の売上進捗が悪ければ、直前に販促を強化し、自社の売上が減少するリスクが生じます。

結局は、消費者の需要は読めない以上、需要を正確に予想することは不可能です。しかし、ビッグデータの蓄積が進めば、多様な需要パターンを予測することが可能になり、その精度は高まります。よって、ビッグデータ分析は早く始めた企業の方が有利であることがわかります。

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《今回のヒントのまとめ》

1）アメリカのクリスマス商戦で、クリスマスプレゼントの配送遅延が起こったのは、直前の需要が予想以上に急増したからであり、また天候悪化により供給能力が削がれたからである。

2）過去のデータから将来を予想するビッグデータ分析では、新しい消費行動を正確に予測することはできず、それがビッグデータ分析の弱点となる。

3）今後、需要の変動に対処するためには、供給能力を高めるか、需要を平準化させるしかない。しかし、全社はROEの低下リスクがあり、後者には競争激化により効果が低くなるリスクがある。

4）結局は、データ蓄積を進めることにより、予想の精度を高めることが重要ではないか。ビッグデータ分析を早く始めた企業の方が有利だろう。

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