【735号】サントリーがビーム社買収に動いた理由とは?
by courtesy of Kim Lowton
◎本日のニュース
1)見出し
Thirsty for Bourbon, Suntory to Pay $13.6 Billion for Beam
【出典】
ウォール・ストリート・ジャーナルの最新情報をいち早く知りたい人は、
2)要約
サントリーによるビーム社買収は、総額136億ドルのディールであり、すべて現金で行われるという。サントリーが巨額の買収に動いたのは、ビーム社の持つバーボンに魅力があるからと言っていいだろう。
アメリカのバーボンは長年低迷してきたが、10年前から人気が復活。アメリカ国内ではウォッカに飽きた人からのシフトが見られ、その歴史の長さもバーボン人気を支えている。バーボン人気はアメリカのみならず、全世界でも需要を伸ばしている。
自社でもウィスキーを持つサントリーにとって、バーボン中心のビーム社を買収しても、製品で競合を懸念する必要はない。また、ビーム社が創業者一族が株式の大半を持たない株式公開企業であることも、サントリーの買収を容易にさせた。
◎キーセンンスとその翻訳
3)キーとなる英文
In a $13.6 billion all-cash deal, Osaka, Japan-based beer and soft-drinks maker Suntory Holdings Ltd. agreed Monday to buy Beam Inc., the owner of Jim Beam, Maker’s Mark and Knob Creek bourbons and the second-largest maker of American whiskey behind Brown-Forman Corp.
4)キーとなる英文の和訳
月曜日、日本の大阪に本社を持つビール・清涼飲料メーカーであるサントリーホールディングス社は、現金のみの136億ドルで、ビーム社の買収に合意した。
ビーム社は、ジム・ビームやメーカーズ・マーク、ノブ・クリークというバーボンを所有し、ブラウンフォーマン社に次ぐアメリカンバーボンの第二位メーカーである。
5)気になる単語・表現
deal |
名詞 |
取引、契約 |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
サントリーホールディングス社によるビーム社買収は、一般紙やニュース番組でも取り上げられたので、ここでは詳しく述べません。
サントリー、蒸留酒世界3位に 「ジム・ビーム」買収1兆6500億円で(日経新聞電子版)
今回は、サントリーがビーム社買収に動いた理由と買収に成功した要因を考えみたいと思います。
【サントリーがビーム社買収に動いた理由】
[1] バーボン市場が全世界で拡大しているから
[2] 蒸留酒市場はビール市場と違い、大手による寡占がなく、シェア拡大が可能だから
[3] 新規参入が少なく、価格競争に陥りにくいから
サントリーがビーム社買収に動いたのは、ビーム社が持つバーボンという商材が魅力的だったからに他なりません。魅力的な理由として一番大きいのは、1です。バーボン・ウィスキー市場のデータとして、次の数字が記事で取り上げられています。
【アメリカ・世界のバーボン・ウィスキー市場】
[アメリカンバーボン]2012年の生産量は、1973年以来初めて100万バレルを突破
[ノース・アメリカンウィスキー]2013年10月までの1年間で、210億ドルの全米蒸留酒市場の成長分の半分以上を占める
[アメリカンウィスキー]アメリカの酒類輸出約15億ドルの約2/3を占める。2012年は前年比9.7%増で、2013年は過去最高。
アメリカンバーボンとは、アメリカンウィスキーの中に属するバーボン・ウィスキー。この生産量が大きく伸びているということは、アメリカ国内のみならず海外でもアメリカンバーボンが人気であることを示します。アメリカンウィスキーの輸出量は、昨年過去最大を記録し、世界でアメリカンウィスキーが人気であることがわかります。
ノース・アメリカンウィスキーとは、バーボン・テネシーウィスキー・カナディアンウィスキーを合わせたもの。全米の蒸留酒市場の拡大に寄与しているのが、ノース・アメリカンウィスキーなのです。
ビーム社は、ジム・ビームやメーカーズ・マーク、ノブ・クリークといブランドを持つ、アメリカで二番目に大きなバーボンメーカー。サントリーはビーム社を買収することで、拡大するバーボン市場の恩恵を受けることができます。一方国内市場は、人口減少でウィスキー市場の拡大はあまり期待できません。
蒸留酒市場の特性も、サントリーをビーム社買収に動かしました。蒸留酒市場は、ビール市場とは対照的なのです。
【世界の蒸留酒市場とビール市場の相違点】
[蒸留酒市場]上位4企業が、全世界の売上数量の9%、売上金額の22%しか占めない
[ビール市場]上位4企業が、全世界の売上数量の47%、売上金額の47%を占める
2について、蒸留酒市場は、ビール市場とは異なり、大手企業により寡占されていないことがわかります。寡占されていないどころか、世界中の老舗ブランドが多数存在し、各ブランドがそれなりの規模の売上を持っています。逆に言えば、今後投資をすることによって、シェアを拡大できるということでもあります。サントリーは、この将来性に魅力を感じてビーム社を買収したのかもしれません。
3について、ウィスキー市場は、ビール市場とは異なり、新ブランドの参入が少なく、価格競争に陥りにくいという特性を持っています。この結果、利益率を高く維持できることになります。新ブランドが多く、価格競争の激しいビール市場とは大きく異なります。
このように、バーボンという商材は、世界で需要が拡大し、今後のシェア拡大も可能で、しかも高い利益率を維持できるという特徴を持つので、サントリーは世界的に有名なバーボンブランドを持つビーム社を買収したのです。
一方、サントリーのビーム社買収を可能にさせた要因も存在します。
【サントリーがビーム社買収に成功した理由】
[1] サントリーが売上規模の大きな蒸留酒メーカーだから
[2] ビーム社が上場企業だから
[3] 買収後にサントリー製品とビーム製品が競合しないから
1について、世界のウィスキー企業の多くは、非上場または創業家に支配されています。また、寡占されていない蒸留酒市場を見ればわかるように、資本力の大きな企業はあまり存在しません。一方で、サントリーホールディングス社は、上場さえしていないものの、ビール・清涼飲料を持つ売上規模の大きな企業であり、高い資金調達力を持ちます。この資金調達力の高さこそ、競業他社よりもビーム社買収を容易にさせたと考えられます。
2について、これは1の裏返しであり、ビーム社が非上場でもなく、また創業家の支配力が強いこともないことにより、売却が可能となったのです。
3について、これはサントリーが買収した理由とも言えますが、サントリーのウィスキーとビーム社のウィスキーは競合しません。というのも、サントリーの製品はジャパニーズ・ウィスキーであり、ビーム社の製品はアメリカンウィスキーだからです。市場のカニバリ懸念が小さいことにより、ビーム社買収によりビーム社製品の持つシェアをそのまま獲得することができます。また、品揃えの強化につながるので、サントリーの競争力は高まります。
ビーム社とサントリーが、すでに提携状態していることも、サントリー買収を容易にさせたことは間違いないでしょう。サントリーは、日本市場でビーム製品を販売し、一方のビーム社は、サントリー製品をシンガポールなどアジア市場で販売しています。
サントリーによるビーム社買収は、大企業のディールであり、中小企業が学べる点は一見少ないように思えます。しかし、サントリーがビーム社買収に動いたのは、バーボンという魅力的な商材でビーム社が大きなシェアを持つから、と考えれば、商材選びの重要性を学べます。バーボンのように、利益率を維持しつつ売上拡大が期待できる商材は、そうありませんが、価格競争の激しくない商材は、意外に近くに存在しているかもしれません。
Suntory Holdings http://goo.gl/AvT6qJ
Beam http://www.beamglobal.com/
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《今回のヒントのまとめ》
1) サントリーがビーム社買収に動いた要因として、3つ考えられる。一つ目は、バーボン市場が全世界で拡大しているからである。人口減少により拡大が期待できない日本とは対照的である。
2) また、バーボンが属する蒸留酒市場では大手企業により寡占されておらず、今後のシェア拡大が可能だからである。資本力のあるサントリーならば、競合他社以上の投資が可能で、シェア拡大も難しくないだろう。
3) さらに、バーボン市場は、新ブランドの参入が少なく価格競争に陥りにくいので、高い利益率を維持できる点も見逃せない。多くの新ブランドが毎年登場するビール市場とは、大きく異なる。
4) 買収合意には、サントリーの高い資金調達力やビーム社が上場企業であること、さらに、サントリー製品とビーム製品が競合しないことが寄与している。
5) サントリーが、価格競争の激しいビールではなく、利益率を維持しつつ売上を伸ばせるバーボンという商材に注目した点には、注目したい。
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編集後記
20代後半から30代前半にかけては、バーボンをよく飲んでいました。
しかし、今ではほとんど飲みません。
今回の買収劇を知って、久しぶりにジム・ビームを飲みたくなりました。
私のような人が多ければ、ジム・ビームの売上が日本で伸びるかもしれませんね。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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今回は私が恩返しします!
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