【703号】アメリカ経済の回復基調は景気後退の踊り場にすぎない?
by courtesy of craig Cloutier
◎本日のニュース
1)見出し
A Weak Economy Puts the U.S. Just a Couple of Hiccups From Recession
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2)要約
景気回復基調にあるアメリカ経済であるが、その足取りは決して力強くない。現実は、高所得者でなければ、なんとかやりくりするので精一杯な人が増加している。実際、中間層をターゲットにする百貨店のJCペニーの業績は、低迷を抜け出せないでいる。
個人消費データを見ると、回復基調にあるが、それは高所得者のシェアが増加しているにすぎない。低所得者の収入が増えなければ、景気回復の波は限定的である。さらに、2014年の第三四半期までは、経済状況が劇的に悪化する恐れがある。
◎キーセンテンスとその翻訳
3)キーとなる英文
Unless you are one of a very lucky few, there is little about the economic recovery that looks “robust.”
4)キーとなる英文の和訳
もし、数少ない非常に幸運な人でないならば、力強く見える景気回復の恩恵はほとんどない。
5)気になる単語・表現
few |
名詞 |
少数の人 |
robust |
形容詞 |
活発な;強健な |
◎記事から読み取った今日のヒント
6)ビジネスのヒント
タイトルを直訳すると、
「弱い景気は、アメリカをちょっとした景気後退の間に押しやっている」
となるでしょうか。つまり、次の景気後退の兆しが見えていることになります。
その前に現在の弱い景気回復をまとめてみたいと思います。
【アメリカ経済の弱い回復基調】
[1] 個人消費を支えているのは高所得者であり、低所得者は生活をするのがやっとの状態。
[2] その背景には、低所得者の収入が増えない現実がある。
1については、統計上の個人消費は回復基調にありますが、その要因は高所得者のシェアが拡大したからです。実際、所得の上位20%が占める個人消費におけるシェアは、
2003年26%→2011年20%
と拡大しています。これにより平均値である統計上の個人消費が増加し、個人消費が活発化したように見えるのです。
その証拠として、中間層をターゲットにするJCペニーの業績不振を取り上げていますが、これは適切とは言えません。というのも、JCペニーが不振に陥った要因は、景気の影響というよりも戦略の失敗の方が大きいからです。ただ、中間所得層が衰退しているのは間違いないかもしれません。実際、お金に困った消費者で、低価格の商品にシフトしている人が増えているだけでなく、ディスカウント店ではなくさらに安い1ドルショップで食料品を購入する世帯が増えているからです。
このように、高所得者以外の消費が伸び悩む要因に、賃金の伸び悩みがあります。さらに、支出の増加により、2014年の第三四半期にかけて、個人消費が落ち込む可能性があると、記事は述べています。その要因をまとめると、次のようになります。
【個人消費を落ち込みさせうる要因】
[1] 住宅ローン金利の上昇・住宅販売の落ち込み
[2] 教育ローンの重い負担
[3] 厳冬予測→エネルギー支出の増加
私なりの反論を加えて説明いたします。
まず1について、住宅市場の回復が景気回復を支えてきましたが、それは低金利だからこそ。実際、30年固定金利は、4月には3.45%という低さでした。しかし、これが、4.5%に上昇すると、住宅市場は一部冷え込むことに。この4.5%という数字は、歴史的に見てまだまだ低い数字。2006年の平均6.4%を考えれば、金利が正常化するに従い、さらなる上昇が起こっても不思議ではありません。ローン金利の上昇はローン負担の増加につながり、個人消費を冷やす恐れがあります。
さらに、今後新たに住宅を購入する層として期待される若年層ですが、その失業率は平均よりも依然高い状態が続きます。20~24歳の失業率は13%。この高い失業率と緩慢な賃金上昇率を考えれば、若年層にはあまり期待できません。よって、住宅市場の回復傾向が今後続くとは考えにくいのです。住宅市場に引っ張られた個人消費が減速しても、不思議ではありません。
ただし、不動産価格の上昇が今後も続けば、また違った結果も浮かび上がります。資産効果を通じて、可処分所得が増加する可能性があるのです。リーマン・ショック後に住宅を購入した層による支出の増加が期待できます。
若年層に期待できないなら、ボリュームの大きなベビーブーマー世代に期待できないでしょうか。既に住宅を所有する人も多いことを考えると、不動産価格の上昇による資産効果も期待できます。
2について、収入の高い職に就くために大学に進学するのですが、その一方で教育ローンを抱えることになります。この教育ローンの重い負担が、消費の足かせになり兼ねないのです。高度な技術を持つ若年層は、住宅・自動者市場にとって利益をもたらす優良顧客ですが、重いローン負担があれば、その期待も外れる恐れがあります。今後長期金利が上昇すれば、住宅ローン負担はさらに重くなり、個人消費を冷やす悪影響を及ぼすかもしれません。
1・2は金融緩和の縮小で長期的に影響が出ることですが、3は今年の冬だけに関わります。今年の冬のアメリカの天候は、厳しい寒さになると予想されています。その結果、暖房への支出が増え、自動車や家具などに使われる予定のお金がエネルギーに使われる恐れがあるのです。
ただし、この寒い気候についても、コートやセーターなどのアパレル品の購入が増える可能性があります。一般的にアパレル業界は、春夏物よりも秋冬物の単価の方が高いので、寒い冬になった方が収益は向上します。よって、厳冬予測は、アパレル消費の拡大が期待できるのです。
いずれにせよ、アメリカの個人消費は、全体が伸びているわけではなく、高所得者が牽引しているのは事実です。よって、中間層や低所得者の収入がどれだけ伸びるかに掛かっていると言えるでしょう。その収入の伸びが緩慢ならば、個人消費は減速し、景気回復が腰折れしても不思議ではありません。金融緩和縮小の影響や債務延長問題などを考えても、アメリカ経済は決して盤石ではありません。減速リスクを考えて、投資をする必要があります。
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《今回のヒントのまとめ》
1) 回復基調のアメリカ経済だが、個人消費を見る限り足取りはかなり危うい。
2) 個人消費が好調に見えるのは、高所得者層のシェアが拡大しているからであり、中間層や低所得者は節約志向・低価格志向を強めているのが現実である。
3) さらに、金利上昇による住宅ローンや教育ローン負担の拡大、厳冬予測によるエネルギー負担の拡大を考えれば、可処分所得が減少する恐れがあり、2014年の第三四半期に掛けて個人消費が急減速する恐れがある。
4) 金融緩和の縮小や債務上限問題なども考慮に入れれば、アメリカ経済の回復の足取りは決して盤石とは言えない。減速リスクを考えて投資をする必要がある。
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編集後記
記事では、最後に投資の指南をしています。
それによると、資産を増やすというよりも守ることが重要であり、生活必需品を販売する企業の株への投資を薦めています。
プロクター・アンド・ギャンブルやキャンベル・スープなどが当たります。
同じことが日本でも起こるとすれば、花王や味の素への投資が無難ということになります。
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今日も長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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私もごく少ない部数の時に、
いろんなメルマガ執筆者様に助けていただきましたので、
今回は私が恩返しします!
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